サマリー
◆円安と海外経済の拡大が同時並行する中にありながら、輸出数量の伸びは振るわない。本稿ではその背景を探り、輸出数量増加のための条件を検証するとともに、日本経済への影響を整理する。
◆円安と海外経済の回復が並行する中で輸出数量が伸びない理由としては、①輸出先の設備稼働率の水準が低いこと、②日本企業のPricing to Market行動、③日本企業のマークアップの優先、④為替レートの見通しに対する不透明感、⑤海外生産移転に伴う輸出減少、の5つが考えられる。短期的には、いずれの要因も輸出数量の伸びを抑制し、国内生産・設備投資・雇用の抑制を通じて日本経済全体の重石となる。
◆しかし中期的に見れば過度の悲観は禁物である。①と④は輸出数量増加のタイミングを後ずれさせる要因であり、円安と海外経済の拡大が続く限り、その効果はいずれ発現する。発現の条件は輸出先の設備稼働率の上昇と円安期待の醸成である。
◆②と③は輸出数量の為替感応度低下要因であり、円高局面における耐久力の上昇として評価しうる。また、③は輸出数量が伸び悩む中でもマークアップの改善を通じて企業収益を改善させる要因である。企業収益の改善が賃金の増加や株価上昇による資産効果につながれば、国内消費の増加要因となる。従って円安が日本経済を改善する効果は、従来と異なった経路で発現する。
◆注意が必要なのは⑤である。これはトレンドとしての構造変化であり、足下の冴えない輸出動向を説明する力は低い。しかし今後の日本経済に与える悪影響は他の仮説に基づくシナリオと比べて深刻である。長期的な国内産業空洞化に対する対策が不可欠となろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
円安・原油安・法人税改正・消費税増税延期が日本経済に与える影響を検証する
論点整理と影響試算
2015年02月12日
-
金融政策の中期見通しと為替レートの考察(日本経済中期予測2015-2024年度より抜粋)
2018年が重要なターニングポイントに
2015年02月12日
-
日本経済見通し(2015-2024年度)
デフレ脱却と財政再建、時間との戦い(日本経済中期予測第2・4章)
2015年02月09日
-
日本経済中期予測(2015年2月)
デフレ脱却と財政再建、時間との戦い
2015年02月03日
-
今後10年の日本経済を読む10の勘所
日本経済中期予測(2014年8月)1章
2014年08月13日
-
日本経済中期予測(2014年8月)
日本の成長力と新たに直面する課題
2014年08月04日
-
設備投資循環から探る世界の景気循環
期待利潤回復、不確実性低下、低金利の下で拡大局面へ
2014年02月06日
-
日本経済中期予測(2014年2月)
牽引役不在の世界経済で試される日本の改革への本気度
2014年02月05日
-
「日本は投資過小、中国は投資過剰」の落とし穴
事業活動の国際化に伴う空洞化が進む中「いざなみ越え」は困難か
2013年10月16日
-
設備投資循環から探る世界の景気循環
期待利潤回復、不確実性低下、低金利の下で拡大局面へ
2014年02月06日
同じカテゴリの最新レポート
-
日本が取り組むべきは「現役期」の格差是正
給付付き税額控除と所得税改革などで貧困層を支えよ
2025年08月25日
-
2025年7月全国消費者物価
単月で見れば弱めの結果も上昇基調は引き続き強い
2025年08月22日
-
2025年7月貿易統計
トランプ関税や半導体関連財の需要一服で輸出金額は3カ月連続の減少
2025年08月20日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日