サマリー
◆2015年2月3日、大和総研では「日本経済中期予測(2015年2月)—デフレ脱却と財政再建、時間との戦い—」を発表した。本予測に当たっては、日本経済を大きく左右する四つの環境変化を織り込んでいる。それらは大幅な円安の進行、原油価格の大幅な下落、法人税制の見直し、そして消費税増税の延期である。本稿ではこれらの変化が日本経済に与える影響について議論するとともに、リスクシナリオを検討する。
◆円安の効果に対する過度の期待は禁物である。国際化に伴う構造変化により「Jカーブ効果」は期待しがたい。結果として円安が国内景気に与えるプラスの影響も大きく低下している。またマクロでの「国内回帰」も、国際的な賃金水準が収斂するほどの円安が達成されない限りは期待しがたいだろう。ただしアップサイドリスクとして、円安の継続が中期的にデフレ均衡からの脱却を演出する可能性には一定の注意が必要である。
◆原油価格の低下は日本経済全体で見た企業収益率の改善を通じて企業所得を改善する。企業収益率の改善は損益分岐点を引き下げ、設備投資を誘発する。同時に、企業所得の改善は所得分配を通じて家計所得を改善し、国内物価の低下による実質所得の改善と相俟って消費を増加させる。設備投資や消費の増加は量的な企業所得を改善させるという副次効果を持ち、原油価格の低下が日本経済を押し上げる効果は尾を引くことになる。
◆法人税改革は「タックスミックスの変更」の色合いが強く、二種類の再分配を生じさせる。一つは低収益企業から高収益企業への再分配であり、一種の成長戦略としての性格を有している。もう一つは、海外利益比率の高い企業から海外利益比率の低い企業への再分配である。円安で潤った前者から後者へのトリクルダウンを促し、日本経済全体での賃上げを促進する効果が期待される。
◆アベノミクスの成否を考える上で大きな問題となるのが財政再建である。財政再建はデフレ脱却と相反する目標ではなく、最優先課題として同時に取り組まなければならない。2014年12月の衆院選を受けて改めて今後4年間の政策運営を担うことになった安倍政権が、より本格的にこれらの目標に取り組むことを期待したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
- 
                                    
                                          円安効果再考 善悪論の相克を超えて 2014年11月10日 
- 
                                    
                                          円安・海外回復で輸出が伸びない5つの理由 過度の悲観は禁物。しかし短期と長期は慎重に。 2014年02月06日 
- 
                                    
                                          日本経済見通し(2015-2024年度) デフレ脱却と財政再建、時間との戦い(日本経済中期予測第2・4章) 2015年02月09日 
- 
                                    
                                          日本経済中期予測(2015年2月)解説資料 デフレ脱却と財政再建、時間との戦い 2015年02月05日 
同じカテゴリの最新レポート
- 
                
                
                
                    主要国経済Outlook2025年11月号(No.468) 経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国 2025年10月23日 
- 
                
                
                
                    世界の不透明感を反映する金価格の高騰 2025年10月23日 
- 
                
                
                
                    日本経済見通し:2025年10月 高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか 2025年10月22日 
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
                                
                                    
                                      - 
                                              
                                          第226回日本経済予測(改訂版) 低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証 2025年09月08日 
- 
                                              
                                          聖域なきスタンダード市場改革議論 上場維持基準などの見直しにも言及 2025年09月22日 
- 
                                              
                                          今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは 金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表 2025年09月01日 
- 
                                              
                                          日本経済見通し:2025年9月 トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は? 2025年09月25日 
- 
                                              
                                          中国:2025年と今後10年の長期経済見通し 25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題 2025年01月23日 
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日





