サマリー
◆2012年の世界ベースのクロスボーダーの直接投資は2011年よりも減少した。目立って減少したのは欧米向けの直接投資であり、新興国向けの直接投資に大きな減少は見られなかった。日本の対内直接投資は、2012年12月の大幅な流入超過により、年トータルでも流入超となった。日本の対内直接投資残高を見ると、長期的に増加傾向にあるものの他の先進国に比べて低水準であることが分かる。
◆日本は経常収支が黒字であることから、資本収支の一項目である純直接投資は流出超になりやすいといえる。一方で、同じ経常収支黒字国であるドイツのように純直接投資は流出超でありながらも、対内直接投資の水準が日本より高い国もある。日本は他の先進国に比べて安価な労働力と技術力という点に魅力があるものの、「市場としての魅力(GDP成長率等)」が低い。また、先進国の中では「インフラの充実度(定期船サービス等)」が低水準であることから、対内直接投資が低水準で推移していると考えられる。
◆対内直接投資は、雇用・賃金の維持と投資資金の供給という観点から日本にとって重要である。現時点において、日本の雇用・賃金に対する対内直接投資の貢献度は低い。雇用や賃金、さらには研究開発費に対する対内直接投資の貢献度が高いドイツのように、日本も対内直接投資の恩恵を受ける余地があると言えよう。
◆日本の企業は貯蓄投資バランスで見た場合、貯蓄超過状態となっており、投資を行う資金を有しているといえる。しかし、日本企業のM&Aや事業拡大のための設備投資資金は、ともに海外へと向かっており、国内向けの投資水準を維持するためにも海外からの直接投資の増加が期待される。
◆ドイツは対内直接投資を呼び込むために、豊富な人材や充実したインフラ、研究開発環境という自国の強みを海外へアピールしてきた。日本もドイツの経験を参考に、海外企業から評価されている生産・開発拠点としての日本の魅力を最大限にアピールする必要があるのではなかろうか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日