カシミール問題を巡る印パの内情と経済への影響

インドは米国の介入を快く思わないが、経済にとっては都合が良い

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2025年05月23日

サマリー

◆本稿は、2025年4月22日のカシミール地方におけるテロをきっかけとした、インド・パキスタン関係悪化の背景と、これを巡る大国(米国・中国・ロシア)との関係について、国家安全保障の専門家への取材をもとにまとめた。

◆インドは元来、カシミール問題を2国間の問題としており、第3国による仲介を嫌う。今回のトランプ米大統領による仲介は、米国に対する一つの「貸し」と位置づけ、米国と現在交渉中である二国間貿易協定のディールにおいて利用したいという考え方もありそうだ。他方、軍事的に劣位にあるパキスタンは米国の仲介を好む。パキスタンは、核の使用を示唆することで、米国に仲介を求めるメッセージを送る傾向にあるが、それが毎回成功するとは限らない。

◆停戦発表後も、双方から停戦合意が破られているとの主張がなされており、状況は流動的である。ただし、大規模な軍事衝突の危機といった最大の山場は越えたとの見方が大勢である。印パ対立は、両国とも国内向けの「形」としてのもので、軍事的・経済的メリットはほぼない。仮に、大規模な軍事衝突を含む印パ対立が長引いた場合、両国経済への悪影響は免れなかっただろう。インドでは、ビジネスマインドの悪化や訪印観光客の減少につながっていた可能性が高い。パキスタンでは、経済再建を着実に進める中で、回復の兆しが見られ始めていた景気に、水を差すこととなっていただろう。インドは、米国の仲介を必ずしも快く思っていない可能性が高いが、経済への影響を考えると都合のよいものだったといえる。

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