サマリー
◆2024年度のインドの実質GDP成長率は、内需の減速を背景に前年度比+7.0%を下回る見通しである。減速の背景には、インドの個人消費の弱さがある。本稿では、この背景と、今後の見通しについて解説する。
◆2022年以降のインドの消費は、コロナ禍前と比べて勢いが減速している。2022年~23年までは、高インフレや、雨量不足による農作物の生産高減少を背景に、地方や低所得者層の消費の弱さが目立った。その一方、中間層以上の消費は堅調に推移していた。
◆しかし、2024年以降は、地方・低所得者層の消費が回復する一方で、都市部における中間層の消費が弱含み始めた。この原因には、①政府による手厚い支援が、地方の農民や低所得者の消費回復に寄与した一方で、都市部の中間層がその対象から外れる傾向にあったこと、②ホワイトカラー職の雇用回復がまだら模様であること、③インド準備銀行(RBI)による高金利政策や個人向けローン規制の強化が、銀行融資へのアクセスが多い都市部の中間層の経済状況に悪影響を与えたことが挙げられる。
◆今後も2025年前半を中心に、インドの消費は都市部を中心に弱含む可能性が高い。引き締め的な金融政策とマクロプルーデンス政策の強化が、中間層の消費回復の重石となるためである。今後の利下げのタイミングは、野菜価格の安定が基調として確認できれば2025年4月頃、遅くとも同年6月頃となるだろう。このように、特に年前半において、金融政策による消費下支え効果が多くは望めない中、財政支援策への期待が高まっている。2025年2月1日に2025年度国家予算案が発表される予定であるが、中間層を対象とした消費刺激策にどの程度資金が割り当てられるのかに注目したい。2024年度予算では、課税所得100万~200万円程度の個人の課税負担が軽減されたが、2025年度予算ではそれ以上の減税措置が盛り込まれる可能性も高い。
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