サマリー
◆2024年4-6月に実施された下院総選挙では、モディ首相率いるインド人民党(BJP)の辛勝という結果となった。モディ首相はこれまで、カリスマ性や、ヒンドゥーナショナリズム、福祉政策で評価されてきた一方、失業・貧困問題・物価高といった経済問題への対応という点では、批判を受けることが多かった。最大野党である国民会議派はこの点を鋭く批判し、躍進を果たした。
◆経済問題の中でも、特に若年層の失業率の高さは深刻である。従来、雇用を主に創出してきたのは、農業と建設業、そして製造業では労働集約型産業、サービス業では家族経営の小売であった。しかし、これらの産業だけでは、膨大な労働人口を吸収しきれない状況が続いている。
◆BJPはマニフェストの中で、雇用創出を目的に、携帯電話や自動車、半導体などの電子機器、デジタル産業の育成に注力するとしている。携帯電話・自動車・半導体産業における労働集約的な作業工程は、ASEANでも育成に成功した国があることから、インドでのポテンシャルも高い。また、インドは、生産された携帯電話や自動車の、アフリカや中東、中南米向け輸出拠点としても期待されている。さらに、グローバル・ケイパビリティー・センター(GCC)といった高付加価値なデジタル産業の育成も、製造業誘致への追い風となるだろう。
◆産業育成と競争力強化のための環境整備には、痛みを伴うものが多い。土地収用法の改正などといった法整備がその一つである。今回の総選挙では圧勝できなかったため、第3次モディ政権が不人気な政策を打ち出すことはより難しい状況ではある。しかし、あえて国民の人気取り政策に傾倒せず、インドの構造的な問題に切り込めるかどうかは、第3次モディ政権の意気込みを図る上で重要な指標となるだろう。まずは、就任当初100日間の動向に注目したい。
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