サマリー
◆本レポートでは、①中国経済の減速、②国際商品価格の下落、③米国の利上げ開始、といった3つの注目度の高いテーマを踏まえ、ASEAN5ヵ国の経済見通しを作成した。
◆中国経済の減速を受けやすい国はタイ・マレーシア・ベトナムである。これらの国は輸出依存度が比較的高いことも手伝って、対中輸出金額の対名目GDP比は10%弱に達している。ただし、ベトナムに関しては中国経済が鈍化する状況下でも対中輸出は堅調に推移している。背景として、ここ数年間でサムスン電子などの外資系企業がベトナムで電子機器などの一大生産拠点を築いた結果、中国の輸入に占めるベトナム製品のシェアが高まった点が指摘し得る。
◆国際商品価格の下落は主要輸出品目の多くが一次産品であるインドネシアとマレーシアの貿易黒字を大きく縮小させた。これを受け、経常黒字が縮小(あるいは経常赤字が拡大)した両国の通貨は強い下落圧力に晒された。この際、マレーシア中銀は大規模な為替介入を実施した結果、外貨準備高を大きく減少させた。
◆ASEAN5ヵ国の中でも危機耐性が特に弱い国は、経常赤字を抱えるインドネシアに加え、外貨準備高に比して多くの対外短期債務を抱えるマレーシアである。ただし、米国の利上げ等をきっかけにリスクオフの流れが生じた場合でも、両国でアジア通貨危機時のような大規模な資本流出が発生する可能性は低い。理由として、各国間で外貨準備を融通する仕組みが整備されたことや、為替制度が当時と比較して柔軟なことが挙げられる。
◆総じて、2016年のASEAN5ヵ国の経済は若干改善する見通しである。まず、多くの国で歳出拡大策が打ち出されている。加えて、主要輸出相手国である日本と米国の経済は回復し、中国も経済の減速ペースが短期的には歯止めが掛かると見込まれるため、輸出も緩やかに加速する見通しである。また、今後米国が緩やかに利上げを進めても、各国が通貨危機に陥る可能性は低い。ただし、資本流出リスクに晒されやすい状況に変わりはなく、特に危機耐性が弱いインドネシアとマレーシアの中銀は、金融緩和を行ったとしても必要最小限の内容に留める公算が大きい。
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