サマリー
中国に限った話ではないが不良債権は実態の把握が難しい。特に中国の場合は通常の貸出とは別に、企業への信用供与の手段として理財商品が利用されているため、銀行が抱える不良債権は見かけ以上に大きい可能性が指摘されている。
理財商品を利用した企業への融資は簿外融資と呼ばれ、銀行のバランスシート上に貸出として記録されず、不良債権の統計で捕捉されない。このことから簿外融資が不良債権の隠れ蓑となっているのではないかといった懸念が浮上している。昨年6月末時点の商業銀行の貸出総額は約82兆元(約1,337兆円 ※1元=16.31円換算)であるのに対し、同時点の理財商品の運用額は約26兆元(約424兆円)と約3割あり、理財商品のリスクは決して軽視できない状況である。
こうした現状を受けて中国当局は今年より理財商品を広義の貸出としてリスク管理し、その増加に制限を設けることを決定した。当局がようやく不良債権の実態把握に本格的に乗り出したということである。
なぜこのタイミングなのか。恐らく今後、理財商品のリスク及び銀行が抱える潜在的な不良債権が顕在化することへの懸念があるからではないだろうか。2015年以降活況を見せた不動産市場はすでにピークを過ぎて減速しつつある。中国の貸出の多くは不動産を担保としているとされており、不動産市場の低迷は融資先のデフォルトリスクを高める恐れがある。このためリスクの顕在化の前に実態把握に乗り出したのであろう。
また、当局は今年1月にMLF(中期貸出制度)、2月にSLF(常備貸出制度)の利上げを実施した。SLFの金利は銀行間市場の上限金利として機能してきたという側面があるため、当局が企業のレバレッジ抑制に向け金融引き締めにシフトしているのではないかとも指摘されている。今回の措置の影響は大きくないが、今後本格的に金融引き締めに向かうのであれば、今まで貸出のロールオーバー等により延命を続けてきたゾンビ企業の資金繰りは困難となる可能性がある。
理財商品への規制は銀行収益への負の影響をもたらすのではないか、金融引き締めへのシフトは企業のデフォルトリスクを増加させるのではないか、といった懸念を抱く声もある。しかし、当局が銀行部門が抱えるリスクの実態把握及び企業のレバレッジ抑制に乗り出したことは長期的には金融の正常化にプラスとなることが期待できるのではないだろうか。
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