2013年03月01日
サマリー
長期的投資とは、投資家がいったん購入した株式や債券をある程度長い年月にわたって保有し続けることを指すばかりでなく、様々に意味づけられている。
ポール・ボルカー、ローレンス・サマーズ、ポール・クルーグマンなどそうそうたるメンバーが名前を連ねる非営利のシンクタンクG30(Group of Thirty)が2月11日に発行した政策提言 “Long-Term Finance and Economic Growth”(※1)(以下、「G30レポート」)における定義によれば、長期的投資(Long-term investment )とは経済の生産力拡大に資する有形または無形の資産への支出であり、住居用不動産、商業用不動産、その他の建造物、工業設備並びにソフトウエア、インフラストラクチャー、教育、研究開発への投資などをいう。長期的投資といっても時間を厳格に区切るのではなく、典型的には長年にわたって使用される資産への投資、ということであるらしい。
G30は、リーマン・ショック後の金融改革に向けて多くの政策提言を行い、金融機関規制や証券市場制度の見直しに大きな影響力を持っている。OECDなども年金基金に向けた長期的投資促進を提言している(※2)が、ここでも長期的投資とは、インフラや気候変動対策への投資であって、一般に長期的投資としてイメージされる長期継続保有や長期等金額投資(ドル・コスト平均法)などとは、関係無い。
長期的投資の具体的内容が不明であるし、また、仮にそれが実現されていないからと言ってどのような不都合があるかも明確でないことから、長期的投資を促進すべしとする見解は根拠不十分に思える旨を記した短文を筆者はこれまで二つほどESGニュース欄に掲載してきた(※3)。投資理論の教科書が批判する長期的投資とOECDなどが推奨する長期的投資とは、その内容が相当異なることは承知していたが、それでも長期的投資という考え方が果たして投資の指針となるかは、疑わしく見えるという趣旨であった。
今回のG30レポートのように、投資期間ではなく投資対象によって長期的投資を定義するのであれば、その投資対象(たとえばインフラや教育)への投資不足が、現在や将来の社会に負の影響を及ぼすかもしれないことは理解できる。長期的投資の不足は是正されるべき場合があるということは、その通りだろう。しかし、G30レポートが言うところの長期的投資を促進するために提案している政策オプションが果たして効果を発揮すると期待できるか、筆者には納得しがたいところも多いので、幾つか指摘したい。
G30レポートは、政策提言の目的(Objective)を五つ掲げているが、その第一は、年金基金や政府系ファンドいった投資家が長期的な投資判断を下せるようにする、ということであり、そのための具体策として、従来の資産運用モデルを見直すべきであるとしている。すなわち、市場ベンチマークとの対比によるパフォーマンス評価モデルや資産配分モデルに過度に依拠することは本質的に正循環的(procyclical)、つまり同一方向への動きを加速する恐れがあるから、抑制するべきであるという。従来の手法に代えて、投資家は長期的投資と整合的な透明で適正な収益測定手法を用いるべきであるという。その測定手法は、現在策定作業が進んでいるものもあるし、KAY REVIEW(※4)にも記されているという。しかし、筆者がみる限りKAY REVIEWには、現代投資理論のモデルに代替しうるほどの具体性はないので、これから作られるかも知れない透明で適正な収益測定手法を待てという風にしか読めない。これがG30レポートの最初の提案(Proposal 1a)である。
長期的投資判断へ誘導するもう一つの策として、ポートフォリオ・マネージャーの成功報酬を3年以上の長期実績に連動する様に設計するということが提案されている。しかし、運用成果の計測は、市場価格に基づいて随時可能であるのに、それを無視して報酬を決定することが適正なのであろうか。足もとで大きな損失を抱えているポートフォリオ・マネージャーに対して、その損失を考慮しない報酬を支払うとなれば違和感を感じないではいられない。また、2年目までに巨額損失を出したポートフォリオ・マネージャーには、3年目までにリターンを回復するために一か八かの高リスクを選好する動機付けともなりかねないのであり、果たして所期の効果を上げることができるのだろうか。
G30レポートには、規制の事前評価を十分に行うことや、データの収集分析を行うべきといった、疑念を呈しようがない提案も多いのだが、長期的投資という名のインフラ投資や不動産投資へ投資家を引き付ける仕組みづくりという点では、頷き難いところがあるように思える。
(※1)“Long-term Finance and Economic Growth”
(※2)“G20/OECD Policy Note on Pension Fund Financing for Green Infrastructure and Initiatives”
(※3)ESGニュース2012年8月3日「長期的投資を促進するための処方箋?」
ESGニュース2012年7月6日「長期的投資を阻む壁?」
(※4)“THE KAY REVIEW OF UK EQUITY MARKETS AND LONG-TERM DECISION MAKING”
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