経済調和条項(調和条項)

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2012年10月01日

  • 岡野 武志

1967年に制定された公害対策基本法は、公害対策の総合的推進を図ることにより、国民の健康を保護し、生活環境を保全することを目的としていたが、生活環境の保全については、経済の健全な発展との調和を図ることとされていた。公害問題や自然破壊が拡大しているにもかかわらず、経済界などからの要請に配慮して置かれたこのような規定は「経済調和条項」と呼ばれており、問題を深刻化・長期化させる一因になったと考えられる。


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1958年に制定された「水質保全法」では、主に第一次産業と第二次産業の相互の調和が念頭に置かれていたものとみられ、生活環境の保護は法の目的に表れていない。1962年に制定された「ばい煙規制法」では、目的の中に公衆衛生上の危害の防止が盛り込まれたものの、生活環境の保全についての経済調和条項が並列的に置かれており、経済発展を重視する考え方強かったことがうかがえる。しかし、公害問題や自然環境の破壊が深刻化する中、国民からの批判も強かったものとみられ、1967年の「公害対策基本法」では、健康の保護や生活環境の保全が主な目的とされる一方、経済調和条項は考慮事項的な位置付けで残されている。


その後、1970年に開催されたいわゆる公害国会で、これらの経済調和条項はすべて削除されている。また、1972年に開催された人間環境会議で演説した大石環境庁長官(当時)は、経済発展を優先したことが、公害問題を深刻化させる一因となったことを反省し、日本が経済成長優先から人間尊重へ大きく方向を変えたことを紹介している(※1)


もっとも、環境法といえども経済や社会の発展と無関係に、とにかく「規制すればよい」ということにはならないであろう。経済調和条項は明文の規定ではみられなくなったものの、現在の環境法にも婉曲的に経済との調和を求める部分はある。例えば循環基本法には、「できる限り循環的な利用」(第6条)や「技術的及び経済的に可能な範囲で」(第7条)などの文言がみられている。これらの部分が、かつての経済調和条項のように取り扱われることのないよう、自然環境の保全・回復や生活環境の改善を進めながら、将来に向かって持続可能な発展を目指す視点で、政策や法令全体を整備していくことが重要であろう。


(※1)「昭和48年版環境白書:参考資料1 国連人間環境会議における大石代表演説」環境省 


(2012年10月1日掲載)

(2013年9月2日更新)

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