6月、復旦大学研究チームと中国銀行(Bank of China)研究チームが相次いで、国家資産負債のリスクに関する報告書を発表、特にメディアがこれを、「2013年養老保険が18.3兆元の原資不足に陥るとの試算が発表された」と報道したことを契機に(6月14日付経済参考報、しかし実際には、これら報告書に同数値は明示的に示されておらず、その出所は不明)、中国国内で年金問題がにわかにホットな話題になっている。これら報告書によると、何の改革もしないと、高齢化に伴い、養老保険不足額の対GDP比は2020年0.2%から2050年5.5%まで上昇する。2050年までの累計不足額現在値(名目成長率で割引換算)は、現在のGDP規模の75%相当にのぼり、環境保全コストよりはるかに高く、また平台と鉄道部門債務の合計の20倍近くになる。このため、2017年以降財政負担が持続的に上昇し、2050年には財政支出全体の20%以上となる。
(鉄飯碗から先進国型の年金制度へ—しかし固有の構造問題も)
中国の年金制度は、1990年代、それまでの「鉄飯碗」と呼ばれた、国有企業等の各組織が従業員を「ゆりかごから墓場まで面倒を見る」システムから、他の多くの西側諸国と類似の基本養老保険(強制加入)、企業年金(任意)、個人貯蓄性養老保険(任意)という3層構造からなるシステムへと移行した。しかし、年金制度が中央集権化されている多くの国と異なり、中国ではその運営が各地方政府に委ねられ、また都市と農村を区分した戸籍制度のため、都市に流入した大半の労働力(農民工)はインフォーマル部門で働き、公的な年金制度の外にある。実態はよくわからないが、労働力全体の約3割程度しか基本養老保険でカバーされておらず、企業年金に加入している者は1%にも満たないと言われる。他方で、これら制度でカバーされている一部の者は大きな恩恵を受け、多くが現役労働者の給与より多い年金を受け取っていると指摘されている。また公務員や大学の多くの教授等は、聞くところによると、まだ過去の「鉄飯碗」のレガシーの恩恵を受けているようだ。こうした高い年金支払いには高い保険料率(たとえば上海では、給与に対し企業負担22%、個人負担8%)が必要になっているが、高い雇用主負担を避けるため、正規の企業登記も行わず地下に潜る企業が増え、したがって、そこで働く従業員は基本養老保険にもカバーされないという悪循環が生じている。これらは年金をめぐる中国特有の問題と言えようが、社会が急速に高齢化する中で年金をどうやって維持していくのかという問題では、日本も中国も同様だ。今のところ、中国は日本のように国の財政が大赤字ではないというプラス面はあるが(ただし、よくわからない隠れ債務の問題はある)、他方で、先進経済段階に入る前に高齢化してしまう(末富先老)という深刻な問題を抱えている(2011年5月31日「一人っ子政策見直し議論に弾みをつける中国最新国勢調査(普査)」)。
(検討される様々な改善策)
年金事情への関心が高まる中で、検討されている主な改善策は以下の通りだ。最も有力な案は、定年の延長である。現在の原則男性60歳・女性50歳定年は1970年代に制定されたもので、以後40年間変わっていない。しかしこの間、平均余命は7歳上昇する一方、一人っ子政策で保険金を支払う側は減少し始め、資金繰りが厳しくなっている。現在65歳以上人口は1.3億人(総人口比8.9%)だが、2030年には28%にまで上昇する(発展研究中心予測)。今のところ、男女とも65歳定年とする案が有力で(人民大学社会保障研究中心主任)、定年を1年延長する毎に収入は40億元増え、支出は160億元節約でき、200億元の収支改善が見込まれる(社会科学院世界社保研究中心主任)。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
地域で影響を増す外国人の社会増減
コロナ禍後の地域の人口動態
2025年07月24日
-
生成AI利活用に関する技術・サービスの動向
基盤モデルなどの最新動向、および全体像・自社事例を解説
2024年07月01日
-
コロナ禍を踏まえた人口動向
出生動向と若年女性人口の移動から見た地方圏人口の今後
2024年03月28日
関連のサービス
最新のレポート・コラム
-
資金循環統計からみる家計金融資産の現状
2026年3月末の金融資産は2,386兆円に。現預金比率は47%に低下
2026年06月26日
-
日本での実質株主確認制度導入に向けた議論
会社法中間試案では2つの制度の導入を検討
2026年06月26日
-
米国:AI活用は続くが、「選別」も本格化へ
「選別」は過剰投資を抑制も、信用リスク・資産価格への波及に注意
2026年06月25日
-
熊谷亮丸の経済・金融 Foresight 高市政権の成長戦略、骨太の方針で実質賃金は本当に増加するのか?
①時間あたり労働生産性の引き上げ、②1人あたり労働時間の増加、の2点が1人あたり実質賃金の増加に向けたカギ
2026年06月25日
-
「形式的・機械的な議決権行使」批判について考える
2026年06月26日
よく読まれているコンサルティングレポート
-
2026年6月株主総会に向けた論点整理
アクティビスト投資家等による株主提案数は過去最多
2026年06月04日
-
2026年6月株主総会の株主提案数(速報)
2026年6月株主総会の株主提案数は101社と過去2番目の多さ
2026年06月17日
-
アクティビスト投資家の近時動向(2026年4月)
「変質」しつつあるアクティビスト投資家。「対話」から「交渉」に。
2026年04月09日
-
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2025年9月版)
「同意なき買収」時代における買収対応方針の効果と限界
2025年09月24日
-
なぜ中国企業は中期経営計画を開示しないのか
—制度・市場・経営環境から読み解く、中国企業の情報開示メカニズム—
2026年05月22日
2026年6月株主総会に向けた論点整理
アクティビスト投資家等による株主提案数は過去最多
2026年06月04日
2026年6月株主総会の株主提案数(速報)
2026年6月株主総会の株主提案数は101社と過去2番目の多さ
2026年06月17日
アクティビスト投資家の近時動向(2026年4月)
「変質」しつつあるアクティビスト投資家。「対話」から「交渉」に。
2026年04月09日
買収対応方針(買収防衛策)の近時動向(2025年9月版)
「同意なき買収」時代における買収対応方針の効果と限界
2025年09月24日
なぜ中国企業は中期経営計画を開示しないのか
—制度・市場・経営環境から読み解く、中国企業の情報開示メカニズム—
2026年05月22日

