
ベストバイは、中国に進出するにあたり、米国で成功を収めたビジネスモデルをそのまま導入した。それは2点に分けて説明できる。1点目は、米国同様中国においても、商品は割引価格ではなく定価で提示し、その一方で、快適なショッピングができる雰囲気作りや手厚いサービスに尽力してきた。来店者が商品を実体験できるサービスなどはその一例である。しかし、中国人は極めて価格に敏感であり、モノを購買する際の値引き交渉は、いまもって日常的な光景である。商品を実体験できるサービスを提供し、いくら商品の良さをアピールしたところで、定価から一歩も譲らなければ(いっさい値引きしなければ)、顧客は国美(GOME)や蘇寧(SUNING)など安めの価格を設定しているローカル系の家電量販店に流れていってしまう。
国美や蘇寧のような中国ローカルの家電量販店の場合、店舗運営コストを低く抑える仕組みが整っている。具体的には、(1)店舗物件は賃貸で取得し、さらにその店舗スペースを分割して各サプライヤーに貸し付け、サプライヤーから賃貸料を受領している、(2)大半の店員は各サプライヤーから派遣されてくる社員である、(3)コマーシャルにかかる費用の一部をサプライヤーに負担してもらっている、といった点である。一方それとは対照的に、ベストバイの場合、(1)店舗物件は賃貸でなく自社所有である、(2)店員は全て自社の社員である、(3)コマーシャルにかかる費用は全額自社で負担している。このように、ベストバイは、国美や蘇寧と比べはるかに高コスト体質であったと推測される。
ベストバイでは、旗艦店開設当初から、中国ローカルの競合他社との差別化を図るため、高級製品中心の品揃えを行い、顧客ターゲットの中心を富裕層に置いていた。しかし、成長著しい中国にあっても富裕層は限られた存在であり、また富裕層であったとしても、国美や蘇寧で売られている安い製品も購入する。高級家電製品への固執が、ベストバイの顧客範囲を狭めたと言えよう。
家電量販店は、価格やサービスだけではなく、規模で勝負する面も多分にある。ベストバイの場合、中国進出からこの度の全店舗閉店までの5年間で、上海・蘇州・杭州での出店は9店舗に止まった。外資系小売企業であるため、店舗開設するためには、省レベルの商務主管部門による初期審査および商務部による最終審査が必要であり、これら一連の手続きには、順調な場合でも約4ヶ月を要する。迅速な規模の拡大を図れなかったことが、ベストバイの成長の足枷になった。
商品が売れない場合、小売業者はサプライヤーに対して強いコントロール力を持てず、スパイラル的に経営が悪化していく。つまり、商品が売れない ⇒ サプライヤーに対するコントロール力が弱くなる ⇒ 低い値段で商品仕入れられなくなる ⇒ 商品の値段が他社より高くなる ⇒ 顧客が他社に流失する ⇒ 商品がますます売れない…このような悪循環に巻き込まれると、市場からの撤退も時間の問題となる。
ベストバイにとっての競合会社は、実店舗を構えて運営している国美、蘇寧のような企業だけではない。eコマースが盛んな中国では、京東商城(www.360buy.com)やNEW EGGなど、インターネットを通して家電販売を展開している企業も複数社あり、実店舗では行えないようなeコマースならではの販促活動を大々的に行っている。公開データによると、京東商城社の昨年の売上高は100億元を越えた。消費者の中には、上述(1)で述べたベストバイの「商品実体験サービス」で先ず商品の実物を見、その場で「買う」と判断しても、ベストバイでは買わず、価格の低いネットショッピングを使って購入する者もいるほどだ。国美や蘇寧もネットショッピングの魅力を感じ、それぞれオンラインショップを開設した。ベストバイは、顧客とのコミュニケーションルートとなっているホームページを持っているにもかかわらず、それをeコマースへ展開させなかったことも敗因のひとつであろう。

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