フィリピンでは、海外で移住・就業する労働者の国内残留家族への生活資金の送金、すなわち海外労働者送金は重要な政策課題である。
近年、途上国の経済成長に大きく寄与しているのが新たな国際資金フローといわれる国際的な労働者送金である。途上国が国際金融危機による投融資の深刻な減少に苦しむなか、海外移民労働者による郷里送金が、途上国の経済発展のための重要な資金源としての役割に注目が集まっている。
世界的に見て労働者送金の資金フローは、海外直接投資額に次いで大きく、政府開発援助額の2倍以上に上る。2008年のグローバル金融危機以降も安定的な拡大傾向を示し、労働者送金は景気の変動をあまり受けない性格の資金フローであることが明らかとなった。
フィリピンの労働者送金流入額は、インド(550億ドル2010年見込み 以下同じ)、中国(510億ドル)、メキシコ(230億ドル)に次いで、210億ドルと、GDPの12%を占めるに至るまでに拡大しており、フィリピン経済を下支えする要因である。
フィリピンの海外移民の歴史は1960年代にさかのぼる。1965年米国移民法の改正に伴い、多くのフィリピン人が米国に移住した。近年は、経済のグローバル化に伴い、受入国も米国をはじめ、カナダ、サウジアラビア、日本、英国、アラブ首長国連邦、シンガポール、イタリア、ドイツなどの国々へ広がっている。現在、全人口の約10%が海外に居住しているとされる(全人口9200万人 2009年)。
海外での就業先も多岐にわたっている。フィリピン海外雇用庁(POEA)によると、製造業、建設業、サービス、農業、畜産、漁業分野でのフィリピン人労働力の需要が強いことを挙げている。最近では、スイス、ノルウェー、デンマークなどヨーロッパ諸国でも、高度な資格を有する技術者やエンジニアの受け入れを解禁している。また労働者送金額の増加の背景に、移住人数の増加に加え高度な専門性を求められる(すなわち給料の高い)分野での就業の増加も指摘されている。

しかし近年は、海外労働者送金に支えられているフィリピン経済というイメージは、大きく様変わりしてきているようである。これまで、労働者送金が、残留家族の生活消費や戸建やマンション購入など投資支出など家計部門の活発な支出を通じてフィリピン経済を大きく支えてきた。一方、近年アジアの経済成長は、フィリピンにおいても新たな産業育成を促進しているが、その背景に海外移住労働者や資本フローの動向が大きな役割を果たしている可能性が考えられるのである。
BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)ビジネスがフィリピンの新しい産業として注目を集めている。BPOとは、企業がその業務の一部を外部へ委託することであるが、データ処理やコールセンター運営が代表例である。フィリピンでは、重点産業政策の一つとして法人税の減免などにより育成を図っている。
BPOは、そのビジネスの運営においては雇用される人材の能力に依存する要素が大きい。とくに英語などの語学能力の高いフィリピンの国民特性を前提として、かつ小資本で起業が可能とされるビジネス形態は、海外移住者が帰還後国内で取り組みの可能なベンチャーとしてもフィリピン政府が注目しているのである(60年代に米国に移住した移民のフィリピンへの帰還が始まると言われている)。
従来、国内に十分な就業機会がないため海外に職を求め移住し、また生活資金として送金される労働者送金が支えているといわれるフィリピン経済だった。だが、今やアジアの経済成長に焦点を合わせ、移住労働者の資本フロー、移住先で国際化を果たした帰国人材、国民的特性である語学能力を生かし、新たな成長戦略を明確に描いている。そこには日本も学ぶものがあると思うがどうであろうか。
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