サマリー
◆デジタルサービスの急速な普及により、利用者自身がアイデンティティ(個人情報や資格情報等、個人を特定/証明するためのさまざまな属性)の管理を行う自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity、以下SSI)という新しいアプローチが注目されている。このアプローチのメリットは、分散型のアプローチや暗号技術の活用によるプライバシー保護およびセキュリティ強化にある。サービス提供側が中央集権的に利用者の個人情報や資格情報を管理する、既存手法における情報漏洩等の課題への効果が期待できる。
◆一方、SSIの実現には多くの障壁が存在する。これには、国際的な相互運用性を実現するための技術的および法的・規制的課題、新しいアイデンティティ管理方法に沿ったビジネスモデル変革、利用者の理解度向上に関連する問題等が含まれる。SSIの実現は今後の国際社会の動向に大きく依存すると考えられる。
◆SSIでも利用されるデジタル証明書(デジタルな形式でアイデンティティを証明する技術)等の技術は既に運用が始まっている。そのため、デジタル証明書等の技術を用い、利用者自身がサービス提供側に共有するアイデンティティを選択できる手法等も具体化しつつある。ただし、完全なSSIではなく、サービス提供側が利用者の情報を管理するため、情報漏洩等の課題は依然として残る。
◆このような状況から、完全なSSIの実現にはまだ時間を要するだろう。しかし、身分証明書や資格証明書、学位証書等、現在アナログ形式で管理しているアイデンティティのデジタル化はますます進展すると考えられる。利用者はプライバシー保護やセキュリティ強化のメリットを受けることと引き換えに、それらについてより一層の知識と意識を持つことが求められるだろう。
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