さらなる適用拡大が女性の低年金を防ぐ

企業負担増には十分な配慮を、従業員規模要件は撤廃が望ましい

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2021年10月29日

サマリー

◆2020年の年金制度改正では、被用者年金の適用拡大に関する要件が見直された。2016年10月に施行された規模501人以上の企業での適用拡大により50万人以上の短時間労働者が厚生年金を適用されるようになったが、規模の要件が50人超へ引き下げられ、新たに65万人の厚生年金加入が見込まれる。

◆これまで適用拡大された短時間被保険者の7割以上は女性である。短時間被保険者全体で賃金収入が増え、特に低収入である女性の国民年金被保険者が厚生年金に加入するようになった点は大きな成果といえる。パート労働者である専業主婦の中には保険料負担の増加を嫌って就労調整する動きが依然として一部で見られるが、適用拡大のメリットについての理解が進めば就労拡大が促される余地がありそうだ。

◆適用拡大を進める上での課題は、企業の負担増への配慮である。短時間労働者を多く雇用する産業からは、これまでの適用拡大に伴う社会保険料の負担増が企業経営に大きく影響を与えたという声が挙がっている。一案として、適用拡大を機に従業員の生産性向上に取り組む前向きな企業に対するキャリアアップ助成金制度の拡充が、円滑な適用拡大に資するのではないか。

◆従業員規模の要件については、企業にとっての競争条件を揃え、個人にとっての働き方や勤め先の選択に関する中立性を高めるために、将来的には撤廃を目指していくことが望ましい。そのためにも、50人超の企業への適用拡大を進める中で浮かび上がる課題があれば、それに丁寧に対応していく必要があるだろう。

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