サマリー
◆2020年の年金制度改正では、被用者年金の適用拡大に関する要件が見直された。2016年10月に施行された規模501人以上の企業での適用拡大により50万人以上の短時間労働者が厚生年金を適用されるようになったが、規模の要件が50人超へ引き下げられ、新たに65万人の厚生年金加入が見込まれる。
◆これまで適用拡大された短時間被保険者の7割以上は女性である。短時間被保険者全体で賃金収入が増え、特に低収入である女性の国民年金被保険者が厚生年金に加入するようになった点は大きな成果といえる。パート労働者である専業主婦の中には保険料負担の増加を嫌って就労調整する動きが依然として一部で見られるが、適用拡大のメリットについての理解が進めば就労拡大が促される余地がありそうだ。
◆適用拡大を進める上での課題は、企業の負担増への配慮である。短時間労働者を多く雇用する産業からは、これまでの適用拡大に伴う社会保険料の負担増が企業経営に大きく影響を与えたという声が挙がっている。一案として、適用拡大を機に従業員の生産性向上に取り組む前向きな企業に対するキャリアアップ助成金制度の拡充が、円滑な適用拡大に資するのではないか。
◆従業員規模の要件については、企業にとっての競争条件を揃え、個人にとっての働き方や勤め先の選択に関する中立性を高めるために、将来的には撤廃を目指していくことが望ましい。そのためにも、50人超の企業への適用拡大を進める中で浮かび上がる課題があれば、それに丁寧に対応していく必要があるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
2019年財政検証をどう見るか
将来見通しに大きな改善は見られず、制度改革が急がれる
2019年09月05日
-
厚生年金のさらなる適用拡大はなぜ必要か
見直しの論点は従業員規模要件の緩和と就労調整する労働者への対応
2019年04月22日
同じカテゴリの最新レポート
-
対象者拡大から8年、今後のiDeCoの可能性
iDeCo加入者数363万人(2025年3月末)、対象者拡大前の12倍に
2025年05月27日
-
DC自動移換者問題の解決に向けて
自動移換者を「発生させない」「増やさない」対策が求められる
2025年03月03日
-
年金積立金の平滑化メカニズムにリスクはないか?
GPIFの2024年度3Q運用実績と年金財政の動向
2025年02月19日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日