サマリー
◆6月中に政府から成長戦略の改訂版が公表される予定である。その中で「混合診療」については、対象となる医療技術や医薬品が大幅に拡充され、患者にとって治療の選択肢が拡大することが期待されている。
◆具体的には、①保険診療と保険外診療を併用する「保険外併用療養費制度」の対象を拡充すること、②治験に参加しておらず他に治療法のない患者に未承認の薬を使えるようにする「日本版コンパッショネートユース」の導入、③患者の希望により国内未承認の新薬や医療機器を利用できる「患者申出療養(仮称)」の創設、④費用対効果が低く高額の医療技術や医薬品を保険対象から除外すること、などが検討されている。
◆しかし、①や②、③で混合診療が認められたとしても、保険外診療が高額であることには変わりなく、積極的に治療に踏み切れる患者は限られる。また、④で、保険適用から除外された診療については混合診療が可能だとしても、その保険適用の有無に関する評価が単に費用面によってのみ行われないよう工夫する必要があるだろう。治療費が高額であることが理由で保険適用から外されるのならば、患者の支払い能力の差によって、受けられる治療に差が生じてしまう。高額な保険外診療に関しては、保険適用とされるのが本来は望ましいだろう。
◆ただし、毎年1兆円ずつ増え続け38.6兆円(2011年度)に達している医療費による財政悪化懸念を鑑みれば、高額な医療技術や医薬品が多く含まれる保険外診療を遍く保険適用としていくことは、今の段階では現実的ではないと言える。そのため、予防をメインとした自助努力が求められると同時に、自己負担割合が低く抑制されている高齢者に対する軽減措置の見直しや受診時定額負担・保険免責制の導入、市販品類似薬の保険適用除外などによる医療費負担の適正化が検討できるだろう。
◆1入院全医療費(1回の入院でかかる全体の医療費)に占める先進医療の割合も増加傾向にある中、医療費の増加をできるだけ抑制しながら、新しい医療技術や医薬品のメリットが少しでも多くの国民に行き渡るためには、救済すべき疾患を見極めつつ、技術進歩に応じて保険の範囲を柔軟に見直していく必要があるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
介護情報基盤の構築に向けた現状と課題
全国実施の遅れは地域包括ケアシステムの推進にもマイナスの影響
2025年07月10日
-
医療等情報の二次利用に向けた環境整備
医療DXの効果を可視化し、一次利用を広げることがカギ
2025年06月12日
-
対象者拡大から8年、今後のiDeCoの可能性
iDeCo加入者数363万人(2025年3月末)、対象者拡大前の12倍に
2025年05月27日
最新のレポート・コラム
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
開示府令の改正案が公表(2026年から一部適用)
有価証券報告書のサステナビリティ情報、人的資本、総会前開示に関する改正案
2025年12月10日
-
2025年12月日銀短観予想
輸出不振や原材料高で製造業の業況判断DI(最近)は悪化を見込む
2025年12月10日
-
議決権行使助言業者への依拠は共同保有認定
米国SECのウエダ委員が議決権行使助言業者規制の方向性を明らかに
2025年12月09日
-
日中関係悪化、中国は自国経済・社会の不安定化回避を優先か
2025年12月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

