サマリー
◆2014年6月に閣議決定された成長戦略の改訂版「『日本再興戦略』改訂2014」(以下、新成長戦略)では、事業環境について、収益性を高めるコーポレートガバナンスの強化や法人実効税率の2015年度からの引き下げが明記される点等は高く評価できるが、法人実効税率の具体的な引き下げ幅やスケジュール感、引き下げに伴う財源の確保がどこまで示されるのかは、年末に向けた税制改革大綱が決まるまで予断を許さない。
◆さらに、プロビジネス的な環境整備が必要な分野は行政手続きの簡素化・オンライン化などがあり、新たに設置される対日直接投資の司令塔やTPP等の経済連携協定といった枠組みを活用しながらも、収益性を高めるさらなるビジネス環境の整備が必要と考える。
◆農協・農業生産法人・農業委員会等の農業改革は、一部を除いて高く評価できるものである。ただし、企業による農地の所有が認められていないと農業の大規模経営が行われにくい。また、農地への優遇課税をなくし、宅地並み課税にすることで農地保有の機会費用を高めれば、本当に必要な農家や法人への農地の集約を促すことになる。
◆医療についても、特に混合診療の適用範囲を大幅に拡大することについては評価したい。ただし、混合診療について実効性のある運用体制作りが、今後の大きな課題となるだろう。例えば、治療内容等の安全性や有効性に配慮しながらも、できるだけ患者本位の治療が受けられるよう、客観的な判断ができる独立性の高い専門家会議を設けることや、適用対象の病院や診療所での治療体制を常時監視していく仕組みを設けるなどの対策が必要である。
◆グローバルな競争圧力の高まりや超少子高齢社会のピークを迎える前に、イノベーションを促す人材力の強化やそれを促す周辺環境の整備・規制改革が必要だ。今後は教育投資や人材活用への優遇政策も含めて、雇用・人材面で一歩進んだ成長戦略を打ち出すべきである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本の成長力はどうなるか
日本経済中期予測(2014年8月)2章、3章
2014年08月13日
-
日本経済中期予測(2014年8月)
日本の成長力と新たに直面する課題
2014年08月04日
-
希望をつないだ新成長戦略(上)
改革メニューは示されたが雇用面で課題
2014年06月27日
-
拡充される混合診療について
それでも高額な保険外診療は患者の選択肢となりうるか
2014年06月20日
-
成長戦略の効果を削ぐ隠れた要因
電子行政の徹底等による行政手続きの合理化が急務
2014年04月11日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年8月消費統計
サービス消費が強く、総じて見れば前月から小幅に増加
2025年10月07日
-
財政悪化が日本経済にもたらす影響とリスクの定量評価
成長力強化と財政健全化で将来の財政危機発生リスクの抑制を
2025年10月07日
-
日本財政の論点 – PB赤字と政府債務対GDP比低下両立の持続性
インフレ状態への移行に伴う一時的な両立であり、その持続性は低い
2025年10月06日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日