サマリー
◆本稿では、地域間の所得格差の実態について、民間・政府部門の分配の視点から論じる。全体的には地域間所得格差は縮小しているものの、地域によってばらつきがある。東京との所得格差が縮小している大きな要因は企業所得の改善にあり、家計所得の改善は進んでいない。
◆人的資本は全国的に高度化しているものの、都市と地方で格差が大きくなっている。技術が急速に高度化し、グローバル化も進む中で、地方では賃金交渉力の弱い未熟練労働者が相対的に多くなっている。一方で、都市では主に大企業に残る日本型雇用制度のために雇用の流動化が進まず、転職による賃金プレミアムの喪失懸念があるので流動化が進まない。これら労働者の賃金交渉力を弱める要因が、家計所得への分配がなかなか増えない原因ではないか。
◆一方、政府部門を通じた分配に関しては、関東や中部・北陸、近畿の一部の家計の負担によって、西日本の家計に所得が再分配されている。この背景には西日本における高齢化要因によって賦課方式で運営される年金の影響が強く出ているものと考えられるが、地域固有の要因も働いており、地域的に偏った所得再分配の歪みが指摘できる。
◆適切な所得再分配を実現するには、できるだけ所得水準に応じた再分配を強化していく必要がある。但しその際には、現役世代の人的資本を高めていくような所得再分配のあり方を真剣に考えるべきだ。例えば、就学時(初等教育から高等教育まで)の教育だけでなく、幼稚園や保育所での就学前教育、そして経済環境の変化に応じて必要なスキルを身に付けられるように、再就職等が容易となるような社会人向けの所得再分配が考えられる。
◆今後、地方における家計の所得分配を増やしていくには、資本と人材の高度化が重要であると考える。グローバル化と技術の高度化が同時進行する中で、地域産業の資本労働比率を高めるなどしながら、労働者は求められるスキルを自分で身に付けていき、賃金交渉力を高めていくことが重要であろう。それらをサポートする体制の充実が、結局のところ、地方経済の立て直しのための本質的な方向性ではないかと考える。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
持続可能な社会インフラに向けて 水道広域化のスケールメリットの検証と課題
足下のコスト削減よりむしろ技術基盤の強化
2025年04月22日
-
水道管路の性能劣化の現状とその対策
都市部の経年化よりむしろ低密度・人口減地域の投資財源不足が課題
2025年03月14日
-
地方創生10年 職種構成に着眼した東京一極集中の要因と対策
どうして若者は東京を目指すのか
2024年12月26日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日