「医療版マクロ経済スライド」の検討

なし崩し的に増大する保険料・公費負担への制度対応が必要

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2018年06月08日

サマリー

◆経済や人口動態に応じて医療保険の給付率を自動調整する仕組み(医療版マクロ経済スライド)の導入検討が、自民党小委員会や財政制度等審議会で提起された。今年の骨太方針でも、保険給付率と患者負担率のバランスに着目した記述が盛り込まれる公算が見えてきた。

◆医療版マクロ経済スライドは、各種制度改革によって医療費を合理的に抑制した上で、それでも給付費の伸びが経済・人口動態を踏まえた伸びを上回る場合、超過分の伸びの一部を保険料率の引上げ以外で自動調整するという発想に基づく仕組みである。

◆医療版マクロ経済スライドに対しては、患者負担が過大になることや、患者負担率が頻繁に変わることなどが懸念されている。だが、患者負担が過大になることはもちろん問題だが、保険料負担等が過大になることも同様に問題である。また、基準とするマクロ経済指標を数年の平均としたり、毎年の給付率調整の規模に上限を設けて数年間で必要な調整を行ったりするなど、技術的な工夫は可能である。

◆国民皆保険を維持するための自助・公助・共助の適切なバランスについての議論が進んだとはいいにくい。将来にわたる負担構造のあり方について青写真が示されておらず、結果として保険料率は上昇を続け、財政赤字解消の目途もたっていない。医療保険制度の持続可能性を高めるためにどのような仕組みが必要か、具体的で現実的な検討を進めるべきだ。

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