サマリー
◆2021年7月1日、経済協力開発機構(OECD)で検討が進められてきた、いわゆるデジタル課税とミニマムタックスの大枠が合意された。2021年10月までに詳細について合意される予定で、2023年からの導入を目指すこととされた。
◆デジタル課税は、インターネットを通じて海外にサービスが提供できるようになったことを受け、自国に支店や工場等(PE)がない外国企業の事業所得には課税できないという国際課税の原則を見直し、PEがなくても市場国に課税権を認めるものである。大枠合意では、デジタル課税の対象は、売上高200億ユーロ超で利益率10%超の多国籍企業グループ(資源関連・金融業を除く)とされた。全世界で100社程度が対象となる見込みであり、日本企業はごくわずかと予想される。
◆一方、ミニマムタックスは、企業の課税逃れに対処するため、タックスヘイブンに子会社を設立すること等により、実際に負担している税率(実効税率)が「最低税率」を下回る場合に、本国の親会社等に上乗せ課税を行うものである。大枠合意では、最低税率の水準は「少なくとも15%」とされ、収益額7.5億ユーロ超の多国籍企業グループ(国際海運業を除く)が対象とされた。一般的に日本企業はタックスプランニングに消極的と言われるが、進出先の途上国等の優遇税制を利用する結果、ミニマムタックスの対象となる場合(この場合、上乗せ課税額は減額される)は一定程度存在するだろう。
◆今回の合意事項には他にも、進出先国の課税当局との紛争防止のため、海外の販売子会社の利益額を客観的に決定する措置も導入される予定である。利益額の水準次第では増税となる恐れがあるが、デジタル課税やミニマムタックスのように対象が限定されていないため、影響を受ける日本企業は多いと予想される。日本企業は、メディア等で注目されている内容だけでなく、今回の見直しの全体像を把握する必要がある。
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