サマリー
◆「トランプ関税」の中でも、最も注目されるのは「相互関税」だ。相互関税とは、貿易相手国・地域が米国産品に課す関税率等に応じて、米国が輸入する製品に対して追加関税措置を課すことを意味する。対象製品や国・地域が広範となり、米国及び世界経済への悪影響も大きくなり得る。現在は、商務省や米国通商代表部(USTR)等が、相互関税の実施に向けて、各国・地域の関税や付加価値税、非関税障壁、為替政策、その他慣行の調査を行っている。大統領令では調査期間が設定されていないものの、ラトニック商務長官やトランプ大統領は4月2日を目途に相互関税の実施を示唆している。
◆本稿では、米国経済への影響度について、相互関税(米国が、各国・地域の対米関税率と付加価値税の合計値から米国の対各国・地域関税率の差分を、各国・地域産の輸入製品に課す)と、報復関税(各国・地域が、自国の付加価値税の半分の税率を米国産の輸入製品に課す)を想定し、米国の実質GDP・CPIへの影響を試算した。その結果、相互関税の実施は米国の実質GDPを最大で0.7%程度下押しし、CPIを最大で0.8%程度押し上げる。
◆相互関税の実施可能性や内容、経済への影響は、今後の各国・地域政府とトランプ政権との交渉によって左右される。USTRが重点的に調査する国・地域の中でも、中国、メキシコ、EU、インド、ベトナムは対米貿易黒字・対米輸出額、相互関税によって想定される税率の引き上げ幅が大きいことから、最注目の交渉相手国・地域グループだ。こうしたグループに対してはトランプ政権も厳格な態度で交渉に臨むことが想定される。
◆米国内の世論調査では、追加関税措置による経済への悪影響を懸念する声が強まっている。3月4日に実施された対中国10%、対カナダ・メキシコ25%の追加関税に関して、ラトニック商務長官は、関税の一部軽減を公表した。関税に対する懸念が強まる中で、トランプ大統領が相互関税へと踏み込んだとしても、軽減等が実施されることも考えられよう。
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