サマリー
◆2025年1月20日に就任したトランプ大統領は、就任直後から大統領令を発出するなど、公約通り初日から不法移民政策に踏み切った。トランプ政権2期目の不法移民政策は、「米国南部国境の非常事態宣言」を発出するなど、不法移民の新規流入を厳格に抑制することを目指す一方、大量強制送還に向けた準備も着々と進めている。
◆しかし、大量強制送還については予算面や拘留キャパシティ等の課題から現時点ではハードルが高い。そのため、トランプ政権2期目の不法移民政策は、まずは新規流入の抑制が最優先となり、強制送還については、目先は的を絞った対応になるとみられる。もっとも、移民裁判所による強制送還命令の増加や一時保護ステータスの撤廃等で、強制送還されやすい対象が徐々に増加していくとみられるなか、リソースの課題解消が進めば、強制送還件数が増えやすくなる点には注意が必要だろう。
◆不法移民の強制送還が進んだ場合の最大の懸念事項は、労働需給のひっ迫を招き、インフレ率を押し上げることだろう。本稿で行ったシナリオ分析では、労働需要(求人件数+就業者数)を横ばい程度に抑えることができれば、不法移民の純流出規模が拡大したとしても、労働需給の再ひっ迫、インフレ再燃は回避できる。他方で、労働需要が増加していく経済状況においては、不法移民の純流出が限定的となるケースにおいても、労働需給はひっ迫し、インフレ率は再加速する見込みだ。
◆トランプ2.0の不法移民政策の下での金融政策の先行きについて、本稿の分析に加えて、2024年12月に公表されたFOMCでのドットチャートを基に考えると、以下の3つのシナリオに整理できる。①まず、労働需要が横ばい程度で安定すると見込める場合は、不法移民政策の影響を踏まえても、FRBは年1~2回(1回あたり25bp)の緩やかなペースで利下げが可能とみられる。②さらに、景気減速の兆候が見え、労働需要も減少していくとみられる場合は年2~4回と、足元の想定よりも利下げ回数を増やすことも想定し得る。③他方で、トランプ政権の政策等により労働需要が大幅に回復していく兆候が見られた場合には、年0~1回のペースと、よりタカ派的な金融政策スタンスを続けざるを得ないだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米国経済見通し 関税激化はいつまでか
米国内の不満の高まりを受け、関税激化の長期化は考えにくい
2025年07月22日
-
米国最大手銀行のレバレッジ比率緩和へ
トレーディング勘定で保有する米国国債をSLRの分母から除外?
2025年07月16日
-
トランプ減税2.0、“OBBBA”が成立
財政リスクの高まりによる、金融環境・景気への悪影響に要注意
2025年07月11日
最新のレポート・コラム
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
「外国人優遇」は本当か?データで見る国民健康保険・国民年金の実態
2025年07月25日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日