サマリー
◆足元の米国経済は、ソフトランディングに向けて歩みを進めている。一方、米国経済の先行きを左右する要因として、1月20日に発足したトランプ新政権の政策動向が挙げられる。トランプ大統領の就任演説等を踏まえ、経済における注目政策は(1)減税・財政、(2)エネルギー政策、(3)関税、(4)移民排除の4つだ。
◆(1)減税・財政に関しては、3-5月を目途に、2025財政年度の本予算成立、債務上限問題の解決、トランプ減税の延長を含む減税策の策定が主な目標となる。共和党議員を中心に財政悪化に対する懸念が強まっている中、早期に本予算・減税案を成立させ、債務上限問題を解決できるかが、市場参加者の注目材料となっている。(2)エネルギー政策に関しては、高インフレに苦しんできた低中所得層から、安価なエネルギー供給に対する期待は高い。化石燃料の掘削許可の迅速化・積極化、生産支援などを通じて、安価なエネルギーを供給できれば、インフレ減速に向けた好材料となろう。
◆(3)関税に関しては、トランプ大統領も就任直後から中国やカナダ・メキシコに対する追加関税措置をほのめかしている。新政権・共和党は従来、インフレ抑制を主張してきたが、追加関税措置はインフレ圧力を高め得る。追加関税措置は必ずしも喫緊の課題とはいえないが、交渉カードの一つとして度々取り上げられることになろう。(4)移民排除に関しては、トランプ大統領は、不法移民の強制送還や新規流入の抑制に関する大統領令を発出した。不法移民の強制送還を中心に予算・制度面の制約は多いが、トランプ支持者は移民排除を支持しており、政策がエスカレーションする可能性がある。その場合、労働需給のひっ迫やインフレ高止まりを引き起こす恐れがあるだろう。
◆なお、本稿の後半部分には米国経済に関する中期見通しを掲載している。メインシナリオとして、米国経済の今後10年間(2025年-2034年)の成長率は、平均+2.1%程度と予想している。他方で、トランプ新政権の政策動向を巡る不確実性は高い。リスクシナリオとして、追加関税措置や移民排除策が過激化すれば、最悪の場合には、一時的に高インフレと景気悪化が並存するスタグフレーションも想定される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米失業率は4.6%に上昇
2025年10・11月米雇用統計:政府閉鎖の影響を踏まえ、慎重な評価が必要
2025年12月17日
-
米銀最大手、9.7兆ドルの国債保有増加余地
レバレッジ比率緩和、米国国債市場の機能改善をもたらすか
2025年12月16日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

