サマリー
◆2025年1月のトランプ新政権の発足によって、経済政策運営ひいては米国経済はいつ/どのように変化するのだろうか。トランプ氏の経済政策の柱として、減税、追加関税措置、移民排除策の3つが挙げられる。減税は景気を押し上げ得るが、追加関税措置や移民排除策による悪影響がはるかに大きい。また、減税がディマンドプルインフレ、追加関税措置や移民排除策がコストプッシュインフレをもたらし得る。米国経済は足元までソフトランディングへと向かってきたが、トランプ氏の経済政策が実施されれば、ハードランディングの可能性が高まることになる。
◆11月の上下院選挙で共和党がいずれも多数派となったことで、トランプ氏の経済政策の実現可能性、ひいては、ハードランディング・リスクが高まったとの見方もある。しかし、共和党が多数派とはいえ、そのリード分は僅差であり、政策実現には少数の離反も許されない。トランプ新政権においても、共和党議員をまとめる上で財政や景気への配慮は不可欠であり、政策内容のマイルド化が進むと考えられる。経済政策がマイルド化する場合、(1)減税は時限的な延長と、財政負担の大きい政策の一部撤回、(2)追加関税措置は中国に対する追加関税を漸進的に実施、(3)移民排除策は大規模な国外退去を実施せず、新規流入の抑制を主軸とする、といった政策内容の調整が現実的だ。
◆トランプ氏の経済政策の効果を試算すると、トランプ氏の主張通りに実現された場合、実質GDPは▲2.07%程度押し下げられ、CPIは+1.98%pt 程度押し上げられる。他方で、経済政策のマイルド化が進めば、実質GDPへの影響は+0.08%程度で、CPIの押し上げ幅は+0.55%pt程度にとどまる。また、トランプ氏の経済政策も一挙に実施されるわけではない。減税は2025年下半期の成立が一つの目安であり、景気に悪影響をもたらす追加関税措置や移民排除策もその後に本格化されると見込まれる。経済政策による効果も2025年下半期から2026年以降に徐々に発現することとなろう。ただし、トランプ氏の不規則発言によって、市場や企業が翻弄されうる点に注意を要する。市場参加者が不確実性の高まりからリスクオフ傾向を強めたり、企業・家計の経済活動が慎重になり、景気を下押しする恐れがある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
非農業部門雇用者数は前月差+13.9万人
2025年5月米雇用統計:緩やかな悪化に留まっていることを示唆
2025年06月09日
-
米国経済見通し 米中デタントも、景気は減速へ
財政悪化と学生ローン政策の変更が景気を一層減速させるリスク要因
2025年05月23日
-
FOMC 様子見姿勢を強調
景気・インフレに加え、金融環境の変化が利下げのタイミングを左右
2025年05月08日
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日