サマリー
◆足元までの米国の労働市場を振り返れば、概ね、リストラやレイオフが大幅に増加せずに労働供給の拡大が求人を充足することで、労働需給の緩和を達成してきたといえる。労働供給の拡大について、過去2年ほどは移民の増加が主な要因であった。特に、近年で米国に流入してきた移民については、滞在・就労許可を得て入国した移民よりも、許可を得ずに入国した不法移民の増加が著しい。
◆もっとも、労働需給は不均一に緩和してきた。業種別に見れば、足元で求人率の低下余地が大きいのは不法移民による就業が難しい業種であり、不法移民が参入しやすい業種は求人率の低下余地は小さい。また、州別の観点でも、不法移民流入が進んでいる州ほど、労働需給の緩和が進んでいる。他方で、不法移民の流入が相対的に少ない州では、コロナ禍前に比べて労働需給のひっ迫感が強い州も少なくない。このように、業種や地域によって労働需給のひっ迫度が異なることから、FRBの利下げによる雇用環境の下支えの効果もそれぞれ異なることが想定される。
◆全体の労働需給が緩和してきている中でも、大部分において現時点で深刻な悪化は見られず、労働需給のひっ迫が続いている業種や州も少なくない。さらに、これまで労働需給の緩和要因となってきた不法移民流入はバイデン政権の移民規制強化により減少傾向にある。労働需給が急激に緩和するというような労働市場の悪化リスクが限定的とみられる現状においては、FRBによる利下げは、9月のドットチャートで示されたような、緩やかなペースが全体最適であると考えられる。
◆労働需給に関しては、金融政策運営だけに左右されるものでもない。移民規制に関しては、新大統領がハリス氏になっても、トランプ氏になっても厳格化していく方向性は共通しているが、どの程度労働供給が抑制されるかは違いがあるだろう。移民規制による労働供給の抑制が緩やかなものに留まれば、失業率の緩やかな上昇が続く可能性がある。労働需給の緩和がより多くの州や業種で進む場合には、利下げのペースが不十分ということにもなり得る。他方で、不法移民がより厳しく抑制されることになれば、労働需給の緩和が止まったり、ないしは労働需給のひっ迫化が早まったりする可能性もあり、その場合はFRBが利下げペースをより緩やかにせざるを得なくなるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米DTCC、トークン化株式の本番取引を開始
証券トークン化、ウォール街の基幹的なポストトレード業務へ移行
2026年10月08日
-
米雇用者数は大幅減速、過去分も下方修正
2026年9月米雇用統計:ただし、均してみれば雇用環境は底堅い
2026年10月05日
-
米長期金利を押し上げる利上げ織り込み加速は妥当か
むしろ警戒すべきは金融環境のタイト化による景気のオーバーキル
2026年10月01日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
-
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
-
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
-
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
-
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日
国税庁が非上場株式評価の方向性を公表
簿価純資産と収益力で評価する「残余利益方式」に統一の方向
2026年09月08日
GPIF経営委員会の8月開催が意味すること
基本ポートフォリオ見直しに向けて第一歩を踏み出したのか
2026年09月01日
日米協調介入は円安の是正にどこまで効果を発揮したのか?
更なる介入の合理性は低下。レジーム転換の有無が今後の焦点に
2026年09月14日
コーポレートガバナンス・コード改訂の焦点
企業の自律的な判断と実質を伴う説明が問われる
2026年08月27日
第230回日本経済予測(改訂版)
円安・金利上昇下の日本経済と成長力強化への課題①AI活用による経済への影響、②資産市場と経済の好循環、を検証
2026年09月08日

