サマリー
◆2024年8月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月差+14.2万人と市場予想(Bloomberg調査:同+16.5万人)を下回った。さらに、過去分が下方修正され、雇用者数の3カ月移動平均は同+11.6万人と、2020年6月以来の低い伸びとなった。失業率に関しては、同▲0.1%ptの4.2%と5カ月ぶりに低下し、市場予想(Bloomberg調査:4.2%)通りの結果となった。もっとも、失業率を小数点第2位まで含めて見れば、失業率の低下幅はわずかに留まる。他方で、前月に大幅に増加したレイオフを含む非自発的失業が、減少に転じた。非自発的失業が均して見れば緩やかな増加に留まっていることから、雇用環境は現時点で急激ではなく、緩やかな悪化が継続しているとみるべきだろう。
◆失業率の上下は移民流入の増減に注意する必要がある。移民が多く流入していた時期は、雇用者数がより多く増加しなければ、失業率が上がりやすい状況にあった。例えば、サンフランシスコ連銀は、失業率を変動させない雇用者数の増加数を、2024年1-3月期はベースシナリオとして月平均14万人と試算していた。ただし、サンフランシスコ連銀はこの水準が徐々に低下すると見込んでおり、長期では同10万人弱と見積もる。加えて、バイデン政権は移民流入を抑制しており、失業率を変動させない雇用者数が既に減少している可能性がある。とはいえ、非農業部門雇用者数が今後も減速し続ければ、徐々に失業率が上昇しやすくなるだろう。
◆金融政策運営については、8月の雇用統計の結果を受けて、FRBが先行きの利下げのペースについてどのような見解を示すのかが注目されていた。8月の雇用統計公表直後の講演会で、ウォラーFRB理事は、8月の雇用統計等、直近の雇用指標を踏まえ、労働市場は緩やかな減速に留まっているとの認識を示した。また、労働市場は冷えているものの、景気後退に陥っている、または近いうちに景気後退に向かうとは考えていない、とも言及した。もっとも、先行きの利下げ幅やペースについては、ウォラーFRB理事はオープンマインド(決まっていない)とし、今後のデータが連続利下げ、大幅利下げ、利下げの前倒しの必要性を示すのであれば、それを支持するとした。ウォラーFRB理事の発言をもとにすれば、現時点では大幅利下げ等の緊急的な利下げはメインシナリオに置いてないと推察される一方、今後のデータ次第でスタンスは大きく変わり得るといえよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
-
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
-
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日