サマリー
◆バイデン氏が大統領選挙から撤退し、カマラ・ハリス現副大統領が民主党大統領候補者となる公算が大きくなっている。ハリス氏の参戦によって、支持率がトランプ氏を上回った世論調査も見られる。他方で、全体的にはトランプ氏が優勢との世論調査が依然として多い。また、スイングステートに関しては、①人種構成的にはハリス氏の支持基盤であるマイノリティが多いもののトランプ氏のリードが大きい州と、②トランプ氏のリードが相対的に小さいものの、トランプ氏の支持基盤である白人が多い州に分かれている。いずれにせよハリス氏が逆転する上でのハードルは高い。
◆政策スタンスを見ると、ハリス氏は幾分リベラル的な主張が目立つものの、バイデン氏から180度の政策変更は考えにくく、米国経済の懸案である高インフレを助長するような内容は少ないといえる。他方で、トランプ氏は追加関税措置や移民規制など、インフレは再加速し、景気も悪化するリスク(トランプ・リスク)がある。ソフトランディングに向けて進展が見られる米国において、懸念材料の一つといえる。
◆こうした中、トランプ氏は追加的な景気対策を打つことで、追加関税措置や移民規制に伴う景気への悪影響の緩和を目指すだろう。ただし、景気対策には上下院での承認が必要となり、大統領選挙と同時に行われる上下院選挙で共和党が多数派を握れるかが焦点となる。直近の世論調査では、上下院ともに共和党がやや優勢となっており、トランプ氏にとってはポジティブな兆候だ。また、トランプ氏が追加的な景気対策を打つ上で、インフレの沈静化とともに政策の優先順位付けが重要となる。足元で、トランプ氏はインフレ抑制を最優先とする発言が多くなっており、移民規制や追加関税措置等はインフレの沈静化後という整理になるだろう。
◆現在の議会選挙見通しやトランプ氏のスタンスを基にすれば、仮にトランプ氏が2025年1月に大統領に就任しても、すぐに高インフレと景気悪化というトランプ・リスクが発現するような最悪の事態は避けられるとも考えられる。市場もこうしたトランプ・リスクの回避を想定しているようだ。ただし、議会選挙の動向やトランプ氏の心変わりによって、トランプ・リスクが発現する可能性は残る。トランプ・リスク回避を期待しつつも、過信しないことが肝要となろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米国の州年金基金とビットコイン現物ETF
「戦略的ビットコイン準備資産」の実現により保有ニーズが高まるか
2025年04月25日
-
「トランプ2.0」における米国金融規制の展望
~銀行システム、暗号資産ビジネスと結合か~『大和総研調査季報』2025年春季号(Vol.58)掲載
2025年04月24日
-
米国経済見通し 高まるスタグフレーションリスク
2025年の実質GDP成長率見通しは前年比+1.3%に改定
2025年04月23日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日