サマリー
◆2023年10月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月差+15.0万人と前月から減速し、市場予想を下回った。さらに雇用者数の過去分が下方修正された。失業率については前月から同0.1%pt上昇し3.9%となった。このように10月の雇用統計はネガティブな結果になったものの、雇用者数の減速に関してはストライキによる影響や大幅に増加した9月からの反動といった要因も含まれる。また、その他雇用関連指標を見ると、雇用環境の急激な悪化を示唆していないことから、足元で雇用環境が悪化傾向を強めたかは、11月以降の結果も含めて評価すべきだろう。
◆金融政策の運営に関して、10月31日・11月1日に開催されたFOMCでは、政策金利であるFF金利は従来の5.25-5.50%で据え置かれた。パウエルFRB議長は、FOMC後の記者会見で次回(12月12・13日)のFOMCで、追加利上げを実施するかはデータ次第であり、「慎重に判断する」と述べた。「慎重に判断する」という表現は金利据え置きを示唆するハト派的な表現といえ、次回FOMCでも金利据え置きの機運が高まったといえる。こうした中で、今回の雇用統計でのネガティブな結果は、FOMC参加者の様子見バイアス(=金利据え置き)を強めると考えられる。
◆ただし、堅調な景気が継続したり、従業員の待遇改善要求に広がりが見られれば、インフレ圧力が和らいでいないとFOMC参加者が判断し、追加利上げの機運は再び高まり得る。また、パウエル議長がハト派的な表現を繰り返した背景にある長期金利の上昇に関して、トレンドの変化が見られる場合には注意が必要である。例えば、今回のFOMCや雇用統計の結果を受け、長期金利が低下していることから、引き締め的金融環境を維持するために、パウエル議長が再びタカ派的なスタンスへと転換することも考えられるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米国経済見通し 関税激化はいつまでか
米国内の不満の高まりを受け、関税激化の長期化は考えにくい
2025年07月22日
-
米国最大手銀行のレバレッジ比率緩和へ
トレーディング勘定で保有する米国国債をSLRの分母から除外?
2025年07月16日
-
トランプ減税2.0、“OBBBA”が成立
財政リスクの高まりによる、金融環境・景気への悪影響に要注意
2025年07月11日
最新のレポート・コラム
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
「外国人優遇」は本当か?データで見る国民健康保険・国民年金の実態
2025年07月25日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日