サマリー
◆足下では銀行不安を契機とした信用収縮によって景気後退に陥る可能性がIMFやFRBから指摘されている。非営利・無党派の研究機関である全米経済研究所(NBER)が景気判断を行う際に用いる指標を確認すると、企業関連指標で見た場合に米国経済は景気後退に近づいている一方、依然として底堅い雇用関連指標や回復の傾向が見られる家計関連指標に注目すると景気後退から距離がある。
◆では、今回の銀行不安による信用収縮で米国経済は景気後退にどれほど近づくのだろうか。国内銀行のリスクアセット状況に基づけば、商工業ローンや商業用不動産ローンが減少しており、信用収縮のあおりを受ける可能性が高いのは企業と考えられる。他方、銀行の消費者ローンや住宅ローンは増えており、銀行不安が米国経済の屋台骨である個人消費を直接的に落ち込ませるとは現時点で考えにくい。
◆金融引き締めや企業向けの貸出スタンスの厳格化によって雇用環境は緩やかに悪化し、個人消費も徐々に減速していくことが想定されるが、豊富な労働需要を背景に失業者が急増するような事態は回避できると期待される。仮に、個人消費に悪影響が及ぶとすれば、銀行不安が市場へと波及することによる逆資産効果などの発現が考えられる。他方、インフレが順調に減速すれば、銀行不安が金融・資本市場に広がることへの予防策や広がった後の政策対応の余地を増やし、雇用や家計の下振れリスクを抑制することにつながるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日