サマリー
◆2023年3月21日・3月22日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では、政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートの誘導目標レンジが、従来の4.50-4.75%から4.75-5.00%へと0.25%pt引き上げられた。銀行の経営破綻に伴い、米銀行セクターに厳しい視線が注がれている一方、高インフレへの警戒から利上げは継続した。銀行セクターに関しては、声明文で銀行システムが健全かつ強靱であるとの評価を示した。パウエルFRB議長は事態が落ち着きつつあると述べた上で、銀行システムへの信頼を高めるために、預金の全額保証や流動性供給など断固たる措置を取り、今回の銀行の経営破綻から教訓を学び、監督や規制を強化することで再発防止に努めていくと述べた。
◆パウエル議長は銀行システムへの不安を打ち消そうとする一方、今回の銀行の経営破綻が信用収縮(資金調達環境の悪化による経済への悪影響)をもたらし得ることに警戒感を示した。今回公表された経済見通しでは、2023年と2024年の実質GDP成長率予想が引き下げられた。ただし、信用収縮の程度は不透明であり、今回の経済見通しでは限定的に織り込んだにすぎない。経済見通しに関する不確実性が高い中で、今回公表されたFOMC参加者のFF金利見通し(ドットチャート)に関しても、ベースシナリオとして2023年内は高い金利の維持が想定される一方、2024年以降はばらついている。
◆今後の金融引き締めに関して一言でまとめれば、信用収縮の程度次第ということである。景気の下振れが緩やかであれば、5月の次回FOMCで0.25%ptの利上げを実施し、その後は利上げ停止となるだろう。景気が急激に悪化するのであれば、QT(数量的引き締め=バランスシートの縮小)及び利上げの停止はもちろんのこと、金融緩和の可能性も考えられる。とはいえ、金融政策を緩和的な方向へと拙速に修正してしまえば、高インフレが残存するリスクは高まる。FRBは銀行不安と高インフレの間で板挟みになっており、当面の間は金融政策を取り巻く不確実性は高いままであることが想定される。
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