サマリー
◆2020年末にかけて減速感が見られた米国経済は、現金給付といった追加支援が支えとなり、2021年1月の小売売上高が大幅増となるなど景気悪化懸念は和らぎつつある。新型コロナウイルスの感染再拡大がピークアウトし、ワクチン接種も進展しつつあることから景気の回復ペースの加速に対する期待は高まっている。加えて、バイデン政権は1.9兆ドル規模の更なる追加支援策(米国救済計画:American Rescue Plan)の実施に向けた準備を進めている。
◆しかし、巨額の追加支援がもたらし得るインフレ率の急上昇や金融の安定性への悪影響、将来的な公共投資の余地の縮小といったリスクなど、批判的な声も出始めている。他方、イエレン財務長官、パウエルFRB議長は雇用環境の回復という観点で追加支援策を援護している。雇用の最大化と物価の安定というデュアルマンデートを負うFRBを率いてきた両氏は、当面のリスクが雇用環境の低迷であると判断したのであろう。「FRBに逆らうな(Don’t fight the FED)」という相場の格言もあるように、新旧FRB議長が追加支援策に積極的である以上、巨額の追加支援策と緩和的な金融環境という構図は揺るがないと考えるべきといえる。
◆追加支援策が議会を通過すれば、景気の過熱に伴う資産価格の一層の上昇や金融の安定性に対する懸念は高まる可能性がある。あるいは、追加支援の実施を、バイデン政権が公約として重視する増税や最低賃金の引き上げに向けた布石として捉えれば、景気の過熱は抑制され得るとの見方もできる。当面は最低賃金の引き上げが焦点となるが、中小企業の負担増や結果としての雇用削減などの悪影響に警戒が必要だろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
非農業部門雇用者数は前月差+13.9万人
2025年5月米雇用統計:緩やかな悪化に留まっていることを示唆
2025年06月09日
-
米国経済見通し 米中デタントも、景気は減速へ
財政悪化と学生ローン政策の変更が景気を一層減速させるリスク要因
2025年05月23日
-
FOMC 様子見姿勢を強調
景気・インフレに加え、金融環境の変化が利下げのタイミングを左右
2025年05月08日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日