サマリー
世界経済は、引き続き先行きに対する不透明感が強い状態であり、景気については正念場を迎えていると考えられる。景気のソフトランディングへの期待は実現するだろうか。
先ごろ発表された2023年7-9月期の実質GDP成長率は、主要国の間でも方向がまちまちであった。米国(前期比年率換算+4.9%)と中国(同+5.3%)は個人消費を中心に成長が加速した。一方で、ユーロ圏(同▲0.2%)と日本(同▲2.1%)は設備投資の停滞などを背景に、ともにマイナスに落ち込んだ。欧米での金融環境のタイト化や中国での不動産不況の継続をはじめ、各地域で景気に対する大きな下振れリスクがくすぶり続けている。
このような中で、今年末にかけての金融政策は特に注目されよう。米国では、FOMCメンバーの9月時点の見通し(中央値)に反して現水準での利上げ打ち止めが市場コンセンサスとなりつつあるが、FRBのパウエル議長はそのようなムードに釘を刺している。12月FOMCで公表される経済見通しで、FRBの姿勢が改めて示されよう。欧州では、前回11会合ぶりに政策金利を据え置いたECBの次の一手がポイントとなる。米国は連邦議会がねじれ状態であること、EUでは財政ルールの見直しが協議されており、財政規律の復活に向かっていることから、欧米では当面積極的な財政政策は期待しにくい。金融政策の行方が景気に直結し得るといえる。
金融政策を左右するインフレは、足元では落ち着きつつある。特に食料品についてはFAO(国連食糧農業機関)が発表する食料価格指数の低下傾向が続いている。
一方、地政学リスクには引き続き注視が必要だ。中東情勢については被害拡大への国際的な批判の高まりもあり、紛争当事者が交渉のテーブルにつき始めた。ただし、周辺への波及も含めて予断を許さない。長期化しているウクライナ問題については、戦車等の地上部隊が行動しやすいとされる冬を迎える。通常であれば2024年に実施されるロシアとウクライナ双方の大統領選挙に向けて、支持拡大のためにここから戦果を競う恐れもある(一方で、和平が目指される可能性もあろう)。地政学リスクがどう変化するのか、特に資源価格への影響に注目したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
中国:国債増発で5%超成長。背景に習氏の面子
李克強前首相死去、1兆元の国債増発、独身の日のネットセール
2023年11月22日
-
欧州経済見通し 高まる利下げ期待
インフレ率は2%台まで鈍化も、なおも上振れリスクが残る
2023年11月22日
-
日本経済見通し:2023年11月
経済見通しを改訂/緩やかな景気回復とインフレの定着を見込む
2023年11月22日
-
米国経済見通し 懸念される個人消費の下振れ
インフレの高止まりリスクもくすぶる
2023年11月22日
同じカテゴリの最新レポート
-
主要国経済Outlook 2025年5月号(No.462)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年04月24日
-
「相互関税」騒動と日本の選択
2025年04月24日
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日