サマリー
◆当社では、福島第一原子力発電所の処理水放出を巡る日中関係の悪化(処理水問題)に関するレポートを8月31日に公表し、暫定試算として、日本の実質GDPへの影響を▲6.1~▲1.2兆円程度と見積もった。だがその後の中国の動きなどを見ると、影響額は当初の想定よりもかなり小さくなる可能性が高まってきた。想定を見直して再試算した結果、実質GDPへの影響額は▲0.2~▲0.1兆円程度とみられる。
◆もっとも、「中国リスク」は燻り続けるだろう。米中対立が激化する中、経済安全保障の分野で日本と米国との連携が進んでいるからだ。当面のリスクとして特に注目されるのは、米国による対中投資規制の影響である。5月のG7広島サミットでの首脳声明などを踏まえ、日本が米国と足並みを揃えて対中投資規制に踏み切る可能性は否定できず、そうなれば中国の更なる反発は必至だ。
◆政府が新たな最低賃金目標として掲げた「1,500円」は現在の欧州諸国並みの金額だが、平均賃金対比では主要国の最高水準を大幅に上回る。その意味で、政府が新目標の達成時期を「2030年代半ば」と明示したのは評価できる。「平均賃金対比の最低賃金の水準」と「平均賃金上昇率」から6つのシナリオを作成して定量的に検討すると、新目標の達成には平均賃金対比での最低賃金の引き上げか、成長力強化か、あるいはその両方が必要で、目標達成は容易ではない。今後は円滑に価格転嫁できる環境の整備や生産性向上の取り組みを官民で一段と推進するとともに、マクロの賃金対比で見た最低賃金の望ましい水準などについても政労使で議論を深めるべきだ。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2023年8月
経済見通しを改訂/23年度は高成長を見込むも24年度は大幅に減速
2023年08月22日
-
処理水問題により、日本のGDPは1.2~6.1兆円減少する可能性【暫定試算】
中国の反発がもたらす日本経済への悪影響は?
2023年08月31日
-
日本経済見通し:2023年6月
経済安保面で高まりつつある「中国リスク」と国内投資活発化の課題
2023年06月21日
-
最低賃金の新たな目標は「1,500円」?
マクロの賃金対比で最低賃金を評価する欧州型目標の導入検討を
2023年08月16日
同じカテゴリの最新レポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
主要国経済Outlook 2025年6月号(No.463)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年05月26日
-
世界経済は落ち着きを取り戻すのか
2025年05月26日
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日