サマリー
◆大和総研は日本経済中期予測を1年ぶりに改訂した。今回は、世界経済の中期的な行方を概観しつつ、人手不足が深刻化する中で大きな転換点を迎える外国人労働政策や、働き方改革に焦点を当てるとともに、財政・社会保障の持続可能性を検討し、中期的な日本経済の姿を展望した。
◆今後10年間(2019~2028年度)の日本経済の成長率を年率平均で実質0.9%と予測する。予測期間前半はプラスマイナスの材料が交錯するが、後半は働き方改革の成果も徐々に表れ、民需が緩やかに成長していく。物価上昇率が1%で安定する後半には、日銀の金融政策の修正が進み、金利上昇を見込む。また、世界経済の平均成長率は3.1%と予測するが、トランプ大統領の政策運営は、引き続きリスク要因となろう。
◆2019年4月から、働き方改革の一環として、大企業を対象に罰則付きの残業規制が導入される。中小企業等も含めた残業規制の対象となる労働時間は月2.6億時間に上る。労働供給の伸びしろとして注目されやすいのは失業者や非労働力人口だが、実は既に働いている人たちの伸びしろの方が大きい。人手不足が深刻な建設業や運輸・郵便業では労働供給の伸びしろが小さいため、処遇改善や柔軟な働き方を可能にする職場環境の整備だけでなく、労働生産性向上の取り組みが欠かせないだろう。
◆深刻化する人手不足に対しては、海外の人材を活用していくことも求められ、2019年4月から改正入管法が施行される予定だ。外国人労働者の受け入れ拡大の影響を試算すると、賃金や労働生産性に対して、必ずしもネガティブな影響は見られなかった。
◆安倍内閣は2025年度のPB黒字化を目指しているが、同年度のPBはGDP比▲2.6%の見込みである。2017年度に106兆円だった社会保障給付費は2040年度に135兆円(物価調整後)に達すると見込まれ、家計や企業の保険料負担はますます重くなる。2025年度のPB黒字化目標の達成には、給付の適正化・重点化や、年齢でなく負担能力に応じた負担の徹底、給付範囲・割合の見直しを進める必要がある。
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