第199回日本経済予測(改訂版)

日本経済は減速へ。「2019年問題」に要注意~①人手不足と外国人労働者受け入れ、②中小企業の労働生産性、③グローバルマネーフロー、などを検証~

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2018年12月10日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 政策調査部 政策調査部長 近藤 智也
  • 経済調査部 主任研究員 溝端 幹雄
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司
  • 小林 俊介
  • 山口 茜
  • 調査本部 渡邊 吾有子
  • 経済調査部 研究員 廣野 洋太
  • 鈴木 雄大郎
  • 柿沼 英理子
  • 経済調査部 エコノミスト 田村 統久

サマリー

  1. 日本経済は踊り場局面、2019年度にかけて減速:2018年7-9月期GDP二次速報の発表を受けて経済見通しを微修正した(2018年度+0.9%、2019年度+0.8%)が、日本経済は踊り場局面にあるという当社従来の判断に変化はない。先行きの日本経済は、在庫循環および外需寄与が剥落する中、低空飛行を続ける公算が大きい。在庫循環は「積み増し」局面から「意図せざる在庫増」局面に突入しつつある。いずれ「在庫調整」局面を迎える可能性が高い。輸出は昨年度まで揃っていた好材料が剥落している。国内に目を向けても、2019年10月には消費増税が控えている。日本経済の成長率は当面、潜在成長率を下回るペースにとどまるだろう。
  2. 人手不足と外国人労働者受け入れ:現在の就業構造に変化がなければ、就業者数は2030年までに約600万人、2060年までに約2,300万人減少する見込みだ。さらなる労働参加の進展が実現するための環境の整備が急務である一方、2060年まで見通すと、一定の生産性向上や高齢者の就業率の大幅な上昇を想定しても経済規模の維持は困難だ。仮に外国人の受け入れによって経済規模を2060年まで維持するとすれば、年間7~31万人の外国人労働者の純流入が必要である。これは現在2%である外国人就業者割合を2060年に7~25%へ引き上げることに相当する。外国人労働者受け入れの制度的枠組みを作ることと、受け入れを積極化することは別問題だ。日本の労働市場の未来を見据えて、今から外国人労働者の受け入れ環境を整備しておくことが重要だ。
  3. 中小企業で改善余地が大きい労働生産性:中小企業が多い日本では、企業規模の拡大や都市集積によって労働生産性が改善する余地は大きい。仮に米国並みに企業規模が拡大すれば、労働生産性は6.8%、都市への集積が進めば20.7%の大幅な改善が期待できる。特に企業規模拡大の効果は製造業(食料品、繊維、金属製品など)や小売業で大きい。これまで培ってきた中小企業の潜在力を活かすには、円滑な事業承継を進めつつ、M&Aやエコシステムの整備を通じた連携強化などにより日本の労働生産性を改善することが必要だ。さらに超少子高齢社会では、労働生産性を引き上げるためにサービス産業を中心に都市集積を促すことも中長期的な課題であると言えよう。
  4. グローバルマネーフローから見るリスクの行方:グローバルマネーフローの動きを確認すると、米国は世界各国から大量の債券投資を吸収すると同時に、大量のリスク性資産を吐き出しており、グローバルマネーフローにおいてまさしく「扇の要」のような役割を果たしてきた。ところが2018年に入り、潮目が変わりつつある。変調をきたしている要因は米国の長期金利(10年物国債金利)の上昇である。予測では、今後米国の長期金利がどこまで上昇するかFedやCBOの見通しを基に試算を行った。加えて、2019年以降のリスク要因として、ECBの出口戦略による長期金利の上昇が考えられる。欧米の長期金利が想定以上に上振れすれば、資金調達コストの上昇などを通じて先進各国の実体経済に悪影響を与えるだろう。
  5. 「2019年問題」:日本経済が直面する恐れがあるテールリスク:2019年以降、①トランプ政権の迷走、②中国経済や③欧州経済の悪化、④原油価格高騰、⑤残業規制の強化、⑥消費増税の影響など内外の様々な下振れリスクが顕在化した場合、日本の実質GDPは約▲4%押し下げられ、リーマン・ショック時並みの影響になる可能性がある。
  6. 日銀の政策:日銀は、現在の金融政策を当面維持する見通しである。現在の金融政策の枠組みの下、デフレとの長期戦を見据えて、インフレ目標の柔軟化などが課題となろう。

【主な前提条件】
(1)公共投資は18年度▲0.7%、19年度+3.0%と想定。
(2)為替レートは18年度111.6円/㌦、19年度113.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は18年+2.9%、19年+2.5%とした。

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