サマリー
◆トランプ米政権が関税措置(トランプ関税)を大幅に強化した2025年4月以降も、日本の輸出や設備投資などは底堅く推移している。だが、これは米国に輸出する企業などが関税引き上げ分の多くを負担する形で、トランプ関税の影響が抑えられているためだ。例えば、日本の米国向け乗用車輸出価格は5月に前年比▲22%と大幅に低下し、追加関税(25%)の大部分を相殺した。こうした企業の対応は持続可能ではなく、いずれ輸出価格の引き上げを迫られるだろう。
◆米国の対日追加関税率は本稿執筆時点で16.0%と試算され、関税率の変化による日本製品の輸出価格の弾性値は▲0.35と推計される。米国の対日輸入価格の上昇率は、対日追加関税率(16.0%)から日本の対米輸出価格の下落率(5.2%)を差し引いた10.8%となり、トランプ関税の負担増の大部分はいずれ米民間部門が負うことになるだろう。今後は米国のインフレ再加速による景気悪化を通じて、日本経済にも悪影響が波及する可能性がある。
◆7月20日投開票の参議院選挙では、与野党が家計支援策を公約に掲げている。このうち自民・公明の与党の現金給付は3.4兆円規模で、GDPの押し上げ効果は0.4~0.8兆円と試算される。軽減税率対象の食料品にかかる消費税ゼロ(4.8兆円規模でGDP押し上げ効果は0.3兆円)や、消費税率の一律5%(15.3兆円規模でGDP押し上げ効果は1.1~3.2兆円)に比べ、費用対効果は高い。だが、与党の現金給付は高所得者を含めて一律に給付する点などには大いに疑問がある。物価高で真に困窮している人に、ピンポイントで手厚く給付するための情報インフラの整備や、行政のDXを加速させる必要がある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
主要国経済Outlook 2025年10月号(No.467)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年09月25日
-
トランプ政権には懐柔か、対抗か
2025年09月25日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
最新のレポート・コラム
-
日本財政の論点 – PB赤字と政府債務対GDP比低下両立の持続性
インフレ状態への移行に伴う一時的な両立であり、その持続性は低い
2025年10月06日
-
世界に広がる政府債務拡大の潮流と経済への影響
大規模経済圏を中心に政府債務対GDP比は閾値の98%超で財政拡張効果は今後一段と低下へ
2025年10月06日
-
議決権行使における取締役兼務数基準の今後
ISSの意見募集結果:「投資家」は積極的だが、会社側には不満
2025年10月03日
-
2025年8月雇用統計
失業率は2.6%に上昇も、均して見れば依然低水準
2025年10月03日
-
米国の株主提案権-奇妙な利用と日本への示唆
2025年10月06日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日