サマリー
- 先行きは一旦踊り場、成長率は2019年度にかけて減速:2018年1-3月期GDP二次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2018年度が前年度比+1.0%(前回:同+1.0%)、2019年度が同+0.8%(同:同+0.8%)である。日本経済は、2017年度に揃っていた好材料が剥落する格好で、一旦踊り場局面に入るとみている。中期的に見ても、資本ストック循環が日米中を中心に成熟化していることに加え、2019年10月に予定されている消費増税の影響などから、日本経済は2019年度にかけて減速を続ける見通しだ。
- 短期・中長期の景気循環から見た世界経済の行方:2018年に入り、米国のインフレ懸念や金利上昇を受けて、グローバルな金融市場が大きく動揺し、「適温経済」の持続性に対する懸念が高まっている。本予測では、主要国・地域の短期・中長期の景気循環を丹念に点検することを通じて、不透明感が漂い始めた世界経済の行方について分析した。世界(日米欧中)の在庫循環を通じて見ると、世界経済は当面底堅い推移が続くと想定される。世界(日米欧中)の資本ストック循環の推移を確認すると、2017年は、成熟局面入りした資本ストック循環が一旦若返り(逆回転)、世界の経済成長率も加速した。先行きについては、世界の設備投資の伸びは徐々に鈍化するとみられるものの、2017年に若返った効果が残存することで、当面、設備投資は底堅く推移するとみている。
- 米中貿易摩擦が日本経済に与える影響は?:米国トランプ政権が再び通商政策上の強硬姿勢を強めている。米国は、中国からの輸入品1,500億ドル相当に追加関税を課す方針で、中国も500億ドル相当の対米輸入品目に追加関税を課す姿勢を示している。両国は歩み寄りの姿勢も見せているが、あくまで自国に有利な条件で決着するための戦略にすぎないとみられ、先行きの不透明感は拭えない。実際に、米中両国の追加関税が日米中の経済に与える影響を試算したところ、実質GDPに対する下押し効果はそれぞれ中国が▲0.30%、米国が▲0.19%、日本が▲0.02%にとどまる。この試算結果を踏まえれば、現時点で発動が視野に入っている関税措置が日本経済に与える影響は総じて限定的であると判断できよう。
- 財政再建で日本経済はどうなるのか?:家計や企業の将来不安や不確実性を取り除くには財政再建が必要である。OECD30ヶ国の長期パネルデータから政府債務残高対GDP比が1人当たり実質GDP成長率に与える影響を試算すると、政府債務残高対GDP比が104%を超えると成長率にマイナスの影響を与えるという結果が得られた。これは、日本の場合、政府債務残高比の削減がマクロ経済には中長期的にプラスに働く可能性を示唆している。財政再建には、消費税率引き上げのような歳入改革に加えて、社会保障制度の歳出改革や財政状況をモニターする中立的な財政機関の設置も必要だ。その際、高齢者雇用の促進や健康維持への強い動機付けを持たせるなど、財政再建と整合的な経済・社会制度を構築できるか否かも、財政再建の成否のポイントとなる。
- 日本経済が直面する恐れがあるテールリスク:2019年以降、景気の成熟化が進む日本経済は、内外の様々な下振れリスクに直面する恐れがある。①トランプ米政権の迷走、②中国経済や③欧州経済の悪化、④原油価格高騰、⑤残業規制の強化、⑥消費増税の影響などのリスクが顕在化した場合、日本の実質GDPは約▲4%押し下げられ、リーマン・ショック時並みの影響になる可能性がある。
- 日銀の政策:日銀は、現在の金融政策を当面維持する見通しである。2016年9月に導入した新たな金融政策の枠組みの下、デフレとの長期戦を見据えて、インフレ目標の柔軟化などが課題となろう。
【主な前提条件】
(1)公共投資は18年度▲1.7%、19年度+2.2%と想定。
(2)為替レートは18年度109.0円/㌦、19年度109.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は18年+2.7%、19年+2.4%とした。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
主要国経済Outlook 2025年6月号(No.463)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年05月26日
-
世界経済は落ち着きを取り戻すのか
2025年05月26日
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日