サマリー
- 海外発の景気下振れリスクは残存:2016年1-3月期GDP二次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2016年度が前年度比+0.7%(前回:同+0.8%)、2017年度が同+0.7%(同:同▲0.1%)である。足下で日本経済は「踊り場」局面が継続しているものの、先行きに関しては、①実質賃金の増加、②原油安と交易条件の改善、③補正予算の執行、などの国内要因が下支え役となり、緩やかに回復する見通しである。ただし、中国を中心とする海外経済の下振れリスクには細心の注意が必要となろう。なお、前回は2017年4月に消費税増税を行うと想定していたが、安倍首相の6月1日の増税延期表明を受けて、今回は増税延期を前提とした。
- 停滞が続く個人消費の活性化に向けた課題:足下で停滞が続く個人消費を回復軌道へと戻すことは、現在の日本経済における最重要課題の一つであると言っても過言ではない。そこで、アベノミクス以降の個人消費の動向を精査したうえで、「年齢階級別」、「年収階級別」という視点から、先行きの個人消費を活性化させるための処方箋について検討した。定量分析の結果を踏まえると、アベノミクス以降、個人消費の盛り上がりに欠けた「若年層」、「低所得者層」に対する所得支援策の発動は、経済面でのプラス効果という観点からも基本的に支持されよう。ただし、中長期的に「若年層」の消費支出を促すには、労働市場改革などを通じた雇用・所得環境の改善が不可欠である。
- 消費増税を再度延期すると何が起きるのか?:安倍首相は、6月1日に消費増税を再度延期すると表明した。この重大な政策変更を評価するため、当社のマクロモデルを用いて、消費増税の短期的な景気への影響と中長期的な財政への影響を定量的に試算した。増税延期による経済成長を梃子に財政再建を行うという考え方は、当試算に照らすと説得力に乏しい。短期的な景気動向に一定の配慮を払う必要はあるものの、財政再建を通じて中長期的に持続可能な経済成長の基盤を整備するという観点からは、万全の景気対策を講じたうえで、消費増税を行うべきであったと考える。
- 日銀によるマイナス金利政策の効果を阻害する3つの障害:日銀が1月にマイナス金利の導入を決定したものの、政策効果として期待された、日本経済の好循環シナリオは未だ起動していない。その理由としては、①グローバルな金融市場の混乱、②企業の設備投資の弱さ、③家計の消費マインドの悪化、という3つの障害が発生していることが挙げられる。しかし、上記①に関しては、日本政府および日銀だけでグローバルな金融市場の混乱を沈静化させることは至難の業である。他方、②・③は政策対応次第で改善することが可能だ。成長戦略を着実に実施し、日本の期待成長率を引き上げることができれば、企業の設備投資マインドの改善が期待できる。また、持続可能な社会保障制度を構築するなど家計の将来不安を取り除くことにより、個人消費を活性化させることもできよう。
- 日本経済のリスク要因:日本経済のリスク要因としては、①中国経済の下振れ、②米国の「出口戦略」に伴う新興国市場の動揺、③地政学的リスクを背景とする「リスクオフ(円高・株安)」、④イギリスのEUからの離脱やギリシャ不安、の4点に留意が必要だ。当社の中国に対する見方は「短期=楽観。中長期=悲観」である。中国経済を取り巻く状況を極めて単純化すれば、「1,000兆円以上の過剰融資」「400兆円以上の過剰資本ストック」に対して、中国政府が600兆~800兆円規模の財政資金で立ち向かう、という構図だ。中国経済の底割れは当面回避されるとみているが、中長期的なタイムスパンでは大規模な資本ストック調整が発生するリスクを警戒すべきであろう。
- 日銀の政策:日銀は、景気下振れ懸念を受けて、2016年7月に追加緩和を実施する見通しである。
【主な前提条件】
(1)公共投資は16年度+1.0%、17年度▲5.4%と想定。17年4月の消費税率引き上げは延期。
(2)為替レートは16年度107.0円/㌦、17年度107.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は16年+1.9%、17年+2.3%とした。
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