第185回日本経済予測(改訂版)

「FED vs. ECB」の軍配はどちらに?~日米欧3極の非伝統的金融政策の効果を検証する~

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2015年06月08日

  • リサーチ本部 副理事長 兼 専務取締役 リサーチ本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • 小林 俊介
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之

サマリー

  1. 日本経済のメインシナリオ:2015年1-3月期GDP二次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2015年度が前年度比+2.0%(前回:同+1.7%)、2016年度が同+1.9%(同:同+1.8%)である。今後の日本経済は、①アベノミクスによる好循環が継続すること、②米国向けを中心に輸出が徐々に持ち直すことなどから、緩やかな回復軌道をたどる見通しである。
  2. 日本経済に関する3つの論点:本予測では、以下の3つの論点について考察した。
    • 論点①:日米欧3極の非伝統的金融政策の効果:日米欧3極の中央銀行がこれまでに採用してきた非伝統的金融政策の効果を国際比較することを通じて、非伝統的金融政策の総括を行うと同時に、先行きへのインプリケーションを探った。試算結果を見ると、FEDのLSAPシリーズが実体経済の改善に最も効果的であったことが確認できる。米国では、LSAP採用後、株価が上昇傾向で推移したことに加えて、他国と比べて家計部門の株式保有比率が高く資産効果が大きかったことから、個人消費が大幅に増加した。他方、CPIへの影響については日銀のQQEⅠが最も大きかった。日銀の金融政策は、実体経済を改善させる効果こそ小さかったものの、大幅な通貨安を実現したことがCPIに対する大きな上昇圧力を生じさせた。
    • 論点②:「FED vs. ECB」の軍配はどちらに?:米国の利上げに伴う世界経済への悪影響が懸念されている。一方でECBの量的緩和による世界経済に対する下支え効果に期待がかかるが、当社のマクロモデルによる試算結果によれば、世界経済および日本経済に与える影響はECBよりもFEDの方が大きくなる見込みだ。ただしFEDがあくまで米国の景気に中立的なペースで利上げを行う限り、過度の懸念は禁物である。新興国のバランスシート改善に伴い、通貨危機のリスクも低減している。最大のテールリスクは、米国の利上げに伴う中国の「バブル」崩壊シナリオだ。中国の金融緩和は一定の景気下支え効果を有するものの、本質的な問題解決が先送りされるため、将来的な調整余地を増幅することになりかねない。
    • 論点③:企業の利益分配から見た賃金・設備投資の先行き:企業収益は極めて高い水準での推移が続いており、「経済の好循環」実現に向けて、その分配に対する注目度が高まっている。企業の利益分配という観点から賃金・設備投資の先行きを検討すると、雇用不足感が特に強く、労働分配率が高い中小企業非製造業では、人件費の増加が収益を圧迫し、設備投資を抑制する可能性が高い。生産増加に伴う稼働率の上昇や、企業収益の拡大傾向が続くことにより、マクロで見た設備投資は増加基調が続くとみられるが、その中心は大企業、とりわけ製造業になるだろう。
  3. 4つのリスク要因:日本経済のリスク要因としては、①財政規律喪失への懸念を背景とする将来的な「トリプル安(債券安・円安・株安)」の進行、②中国の「バブル」崩壊に対する懸念、③米国の出口戦略に伴う新興国市場の動揺、④地政学的リスクを背景とする世界的な株安、の4点に留意が必要である。
  4. 日銀の金融政策:当社は、メインシナリオとして、日銀が掲げる「物価上昇率2%」目標の期限内の達成は困難だと考えている。日銀は、2015年秋口をめどに追加金融緩和に踏み切る見通しである。

【主な前提条件】
(1)公共投資は15年度▲5.1%、16年度▲3.7%と想定。17年4月に消費税率を引き上げ。
(2)為替レートは15年度124.2円/㌦、16年度125.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は15年+2.2%、16年+2.7%とした。

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