第184回日本経済予測

日本経済に関する3つの論点を検証する~①原油安の影響、②設備投資の国内回帰、③ユーロ圏の日本化~

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2015年02月20日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智
  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之

サマリー

  1. 日本経済のメインシナリオ:2014年10-12月期GDP一次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2014年度が前年度比▲0.9%(前回:同▲0.5%)、2015年度が同+1.9%(同:同+1.8%)、今回新たに予測した2016年度が同+1.8%である。当社が従来から指摘してきた通り、日本経済は、2014年1月をピークに景気後退局面入りしたとみられるものの、景気後退は同年8月前後までの極めて短い期間で終了した可能性が高い。今後の日本経済は、①アベノミクスによる好循環が継続すること、②米国向けを中心に輸出が緩やかに持ち直すことなどから、緩やかな回復軌道をたどる見通しである。
  2. 日本経済に関する3つの論点:本予測では、以下の3つの論点について考察した。
    • 論点①:原油安が日本経済に与える影響は?:2014年夏場以降の急激な原油価格の下落は家計、企業の双方にメリットをもたらし、景気拡大を後押しするとみられる。家計部門では、物価下落によって購買力が向上することに加えて、実質賃金上昇によるマインドの改善も個人消費を押し上げる要因となるだろう。企業部門では、コスト低下が収益の押し上げ要因となり、設備投資や賃金の増加にもつながるとみられる。マクロモデルを用いたシミュレーションによれば、2014年夏場以降の原油安によって、2014~2016年度の実質GDPの水準はそれぞれ2014年度:+0.20%、2015年度:+0.50%、2016年度:+0.41%押し上げられる。
    • 論点②:設備投資の国内回帰は起きるのか?:近年の円安進行を背景に、製造業の一部において、国内回帰の動きが大きく報道されている。海外設備投資比率を回帰式によって推計すると、2014年度以降低下に転じると予想される。また、企業に対するアンケート調査の結果を見ても、製造業は2014年度に海外設備投資を減少させる計画となっている。今後はアベノミクスの効果が徐々に顕在化する中で、過去の円高進行により行き過ぎた海外設備投資の国内回帰が進むとみられる。
    • 論点③:ユーロ圏経済は日本化(Japanization)するのか?:ユーロ圏経済は、わが国との比較という観点からは、強弱双方の要因を抱えている。全体として、ユーロ圏には追加的な政策発動の余地が依然として残されていることから、わが国の「失われた20年」を教訓に各国政府・ECBの両者が適切な政策を講じることができれば、長期構造不況への転落を回避することが可能である。ただし、「金融政策を一本化する一方で、財政統合は行われていない」という、ユーロ圏が抱える構造的な欠陥が、加盟国に蔓延する「ポピュリズム」的な風潮と相まって、致命的な足かせとなりかねない点には最大限の警戒が必要になるだろう。
  3. 4つのリスク要因:日本経済のリスク要因としては、①消費税増税の先送りを受けた将来的な「トリプル安(債券安・円安・株安)」の進行、②中国の「シャドーバンキング」問題、③米国の出口戦略に伴う新興国市場の動揺、④地政学的リスクを背景とする世界的な株安、の4点に留意が必要である。
  4. 日銀の金融政策:当社は、メインシナリオとして、日銀が掲げる「物価上昇率2%」目標の期限内の達成は困難だと考えている。日銀は、2015年秋口をめどに追加金融緩和に踏み切るとみられるが、金融緩和のタイミングが大幅に前倒しとなる可能性もあるだろう。

【主な前提条件】
(1)公共投資は14年度+5.1%、15年度▲5.3%、16年度▲3.5%と想定。17年4月に消費税率を引き上げ。
(2)為替レートは14年度109.9円/㌦、15年度120.0円/㌦、16年度120.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は15年+3.0%、16年+2.7%とした。

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