第175回日本経済予測(改訂版)

景気回復のシナリオを探る~中国など世界経済をどう見るか?~

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2012年12月10日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
  • 齋藤 勉
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎

サマリー

  1. 経済見通しを上方修正:2012年7-9月期GDP二次速報を受け、2012-13年度の成長率見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2012年度が前年度比+1.0%(前回:同+0.7%)、2013年度が同+1.1%(同:同+0.9%)である。2011年度の国民経済計算確報発表を受けて、公共投資の見通しを大幅に上方修正した。
  2. 日本経済はどこから立ち上がる?:日本経済は海外経済の悪化などを背景に、2012年3月を「山」に景気後退局面入りした可能性が濃厚である。本予測では過去の日本経済の回復局面を検証することなどを通じて、今後の日本経済回復の条件を探った。過去の日本経済の回復局面を検証すると、1990年代以降、景気回復のドライバーが「財政・金融政策」から「輸出」へと明確に変化していることが確認できる。今後の景気後退局面でも、海外経済の回復などによる輸出の増加が日本経済底入れの発火点となる可能性が高いだろう。今後の日本経済は、様々な景気下振れリスクを抱えつつも、メインシナリオとして、[1]米国・中国経済の持ち直し、[2]震災発生に伴う「復興需要」、[3]日銀の追加金融緩和、という「三本の矢」に支えられて、2013年以降、緩やかな回復軌道を辿る公算である。
  3. 今後の世界経済をどう見るか?:今後の世界経済を展望する上で鍵になるのは、欧米など先進国の内需低迷を、新興国の政策発動でどの程度相殺できるか、という点である。当社は今後の世界経済に関して、[1]先進国の内需、[2]新興国の政策発動、を外生変数とする定量的なシミュレーションを行った。結論として、新興国が積極的な財政・金融政策の発動を実施すれば、先進国の内需低迷をある程度相殺することは可能だとみられる。ただし、「欧州ソブリン危機」の深刻化、米国の「財政の崖」、など複数のリスク要因が同時に起きるケースでは、新興国の政策発動のみで世界経済を支えるには力不足であると考えられる。
  4. 中国経済はハードランディングに向かうのか?:本予測では日中関係の悪化が日本経済に与える影響に関するシミュレーションを行った。日中関係の悪化は、2012-13年度の合計で、わが国のGDPを0.1~0.4%程度下押しする計算となる。中国経済は、当面財政・金融政策発動の効果などから緩やかに持ち直す見通しである。ただし、中長期的に見ると、中国で大規模な設備ストック調整が発生するリスクを警戒すべきだ。2030年にかけて、中国の潜在成長率は+5%台へと大きく減速する可能性があろう。
  5. 日本経済のリスク要因:今後の日本経済のリスク要因としては、[1]「欧州ソブリン危機」の深刻化、[2]日中関係の悪化、[3]米国の「財政の崖」、[4]地政学的リスクなどを背景とする原油価格の高騰、[5]円高の進行、の5点に留意が必要である。
  6. 政府・日銀に求められる政策対応:わが国の政策当局は、日本経済再生に向けて、[1]トップリーダーの確固たる「ビジョン(国家観・哲学)」に基づいた体系性のある政策を実行、[2]「内需」や「需要サイド」のみに固執するのではなく、「外需」や「供給サイド」も重視したバランスのとれた経済政策を実施、[3]消費税引き上げ、社会保障費を中心とする歳出削減などを通じて「財政再建」を実現、[4]政府・日銀がより一層緊密に連携、という4点を柱に据えた経済政策を断行すべきだ。特に、上記[4]に関連して、グレンジャー因果性を用いた分析などによれば、日銀のさらなる金融緩和を通じた円安・株高の進行などがデフレ脱却に有効である。

【主な前提条件】
(1)公共投資は12年度+13.5%、13年度▲1.2%と想定。14年4月に消費税率を引き上げ。
(2)為替レートは12年度79.7円/ドル、13年度80.0円/ドルとした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は12年+2.2%、13年+1.8%とした。

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