サマリー
◆本稿は、「財政運営の分岐点」シリーズレポートの第2弾(全3回)として、最近の日本で観察される、国・地方の基礎的財政収支(PB)赤字と純債務残高対GDP比の低下が両立している状態の持続性を検討する。
◆両立の鍵を握るのは、名目実効金利が名目GDP成長率を下回るという、いわゆる「ドーマー条件」だ。同条件が成立すれば、PB赤字であっても純債務残高対GDP比は低下する場合がある。デフレ・低インフレ状態からインフレ状態へと経済が移行したことを主因に、足元でこうした状況が成立している。だが、当社の試算では、名目実効金利は緩やかながらも上昇を続ける見込みであることから、ドーマー条件は2020年代後半には成立しなくなる可能性がある。
◆また、物価上昇がPBに与える影響を試算すると、物価上昇は短期的にPBを改善させる一方、長期的にはPBに対しておおむね中立であるとみられる。現在の日本経済では、インフレ状態へと移行したことが足元でPBを改善させている側面は大きいが、この効果は長続きしないと考えられる。
◆以上を踏まえると、純債務残高対GDP比は、経済がインフレ状態へ移行したことによって一時的に下押しされているだけであり、その持続性は低いと捉えることが穏当であろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
第226回日本経済予測
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年08月21日
-
世界に広がる政府債務拡大の潮流と経済への影響
大規模経済圏を中心に政府債務対GDP比は閾値の98%超で財政拡張効果は今後一段と低下へ
2025年10月06日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年10月貿易統計
トランプ関税の悪影響が継続。今後は米中リスクにも警戒が必要
2025年11月21日
-
2025年10月全国消費者物価
サービス価格や耐久消費財価格の上昇が物価上昇率を押し上げ
2025年11月21日
-
中国の渡航自粛要請は日本の実質GDPを0.1~0.4%下押し
今後は対中輸出などへの波及に要注意
2025年11月21日

