サマリー
◆仮想空間を用いた交流や活動であるメタバースは、新型コロナウイルス禍(以下、「コロナ禍」)の最中、対面活動の代替手段として、にわかに注目された。しかし、流行語としての関心は、2022年初頭をピークに低迷している。
◆しかし、これでメタバースの将来性が失われたと結論付けるには時期尚早である。例えば、直近の国内事例を見ると、建設・製造業でのデジタルツイン(仮想空間等に現実の環境や空間を再現してシミュレーション等を行う技術)や、地方創生に資するリアルとメタバースのハイブリッド展示会等、依然、メタバースの活用は進展中だ。加えて、メタバース関連の著名サービスであるVRChatやFortnite、Roblox等のウェブ検索数も堅調に推移している。メタバースは関心を失われず、社会へ緩やかに定着しつつある。
◆そうした中、日本ではメタバースの認知度や業務活用が、絶対数でも諸外国比でも少ない。若年層で利用が進む一方、20代後半から中高年層を中心とした社会人の理解や経験が乏しいようだ。背景には、日本が新たなデジタル技術を受容するペース自体が遅い可能性が挙げられる。また、一部企業の撤退の要因には、メタバースの強みを活かさない閉鎖的なサービス設計や単純なリアルの代用品に留まったこと等が考えられる。
◆ところが、各種推計を見ても、世界では2030年にはメタバース関連市場が約5,000億ドルに達すると見込まれているほか、国内でもメタバース市場規模が2028年度には2兆円近くに達すると推計されている。また、関連技術であるVR機器の進化や次世代通信によって、さらに発展する可能性を秘めている。将来性は依然として大きい。
◆今後は、リアルでは困難な体験や移動コストの削減等の仮想空間の特性を活かした補完的な活用や、あるいはコミュニケーションを重視した活用が重要だ。「デジタル敗戦」と揶揄される状況を繰り返さないために、政府は成功事例や活用マニュアルの紹介およびメタバース分野への研究援助を継続する必要がある。また、企業は研修等の啓発活動で、実際のサービスの体験や業界内の事例共有等の手触り感ある理解を促進し、地に足のついた活用の機会を逃さないようにする必要がある。
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