サマリー
◆本稿では、日本経済において「賃金と物価の好循環」が長期的に実現しなかった背景を整理した上で、足元での好循環の進展度合いを評価する。さらに、好循環の定着に向けた課題を検討する。
◆【好循環が実現しなかった背景】日本経済の傾向として、「労働市場⇒賃金⇒物価」という波及経路で過熱感が伝播することが挙げられる。だが、2010年代後半の経験を踏まえると、「労働市場」から「賃金」への過熱感の波及が「遅く」、「弱かった」ことが、当時の経済構造の課題として指摘できる。
◆【進展度合い】足元では労働市場での過熱感が賃金を「より早く」、「より強く」押し上げる構造への転換が進んでいる。背景には、労働供給の増加余地の縮小を受けて転職市場が活性化していることや、労働需給のひっ迫が賃金上昇へとつながりやすい若年層で増加余地がとりわけ縮小していることが挙げられる。こうした状況を踏まえると、賃金と物価の循環的な上昇には一定程度の進展が見られる。
◆【課題】もっとも、業種別に見ると、賃金と物価の循環的な上昇の進展度合いには差がある。とりわけ家計向け非製造業では、他業種と比べて循環的な上昇メカニズムが機能していない。背景として、市場の競争度が高く自社の販売価格を引き上げにくい点や、コスト全体に占める人件費の割合が高いため人件費が増加すると収益が悪化しやすいという点が指摘される。また、家計向け非製造業では、日本銀行による利上げの悪影響が強く表れる点にも留意が必要だ。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
2025年1-3月期GDP(2次速報)
実質GDP成長率は前期比年率▲0.2%に改善するも民間在庫が主因
2025年06月09日
-
2025年4月消費統計
総じて見れば前月から概ね横ばい、先行きも横ばい圏で推移しよう
2025年06月06日
最新のレポート・コラム
-
医療等情報の二次利用に向けた環境整備
医療DXの効果を可視化し、一次利用を広げることがカギ
2025年06月12日
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日