「賃金と物価の好循環」の進展評価と定着に向けた課題

全体では進展も、家計向け非製造業は循環的な上昇メカニズムが弱い

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2024年11月20日

サマリー

◆本稿では、日本経済において「賃金と物価の好循環」が長期的に実現しなかった背景を整理した上で、足元での好循環の進展度合いを評価する。さらに、好循環の定着に向けた課題を検討する。

◆【好循環が実現しなかった背景】日本経済の傾向として、「労働市場⇒賃金⇒物価」という波及経路で過熱感が伝播することが挙げられる。だが、2010年代後半の経験を踏まえると、「労働市場」から「賃金」への過熱感の波及が「遅く」、「弱かった」ことが、当時の経済構造の課題として指摘できる。

◆【進展度合い】足元では労働市場での過熱感が賃金を「より早く」、「より強く」押し上げる構造への転換が進んでいる。背景には、労働供給の増加余地の縮小を受けて転職市場が活性化していることや、労働需給のひっ迫が賃金上昇へとつながりやすい若年層で増加余地がとりわけ縮小していることが挙げられる。こうした状況を踏まえると、賃金と物価の循環的な上昇には一定程度の進展が見られる。

◆【課題】もっとも、業種別に見ると、賃金と物価の循環的な上昇の進展度合いには差がある。とりわけ家計向け非製造業では、他業種と比べて循環的な上昇メカニズムが機能していない。背景として、市場の競争度が高く自社の販売価格を引き上げにくい点や、コスト全体に占める人件費の割合が高いため人件費が増加すると収益が悪化しやすいという点が指摘される。また、家計向け非製造業では、日本銀行による利上げの悪影響が強く表れる点にも留意が必要だ。

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