サマリー
◆前回のレポートでは、日本の労働市場のデータを使い、どの職業が生成AIの影響を受けやすいのかについて定量的かつ包括的に分析した。シリーズの第三弾となる本レポートでは分析をさらに掘り下げて、生成AIと協働関係にある職業グループ(以下、協働グループ)、および生成AIと代替関係にある職業グループ(以下、代替グループ)を推定した。さらに、日本における両グループに属する就業者の割合を男女別・産業別に推計し、両グループと職種別年収の関係も探った。
◆この結果、協働グループには、ソフトウェアエンジニアやファンドマネージャー、経営コンサルタント、弁護士などの専門職や管理職などが分類された。一方で、代替グループには、プログラマーや一般事務、パラリーガル(法律事務職員)などが分類された。
◆全就業者のうち、生成AIの影響を受けやすい協働あるいは代替グループに分類された割合は共に20%前後であり、残り約60%の就業者はその他のグループに分類された。男女別に見ると、協働グループの約60%が男性、代替グループの約60%が女性と対照的な結果であった。さらに各産業の特徴は大きく異なっていた。例えば、金融業や不動産業では、協働および代替グループ双方の就業者の割合が高かった上に、代替グループの割合が協働グループのそれを上回り、雇用にマイナスの影響が示唆された。年収別に見ると、協働グループの職種別収入は比較的高い一方、代替グループのそれは平均をやや下回る傾向が観察された。
◆生成AIの普及は、協働グループの雇用と所得にプラスの効果をもたらすほか、新たな職業を誕生させるだろう。一方代替グループでは、非正規社員を中心に、雇用や所得が伸び悩む可能性がある。このため、今後は雇用・所得格差の拡大や中間層の空洞化のリスクが懸念される。したがって、生成AI時代の本格的な到来に向けて、生成AIに代替されないスキルの習得・活用支援や、労働市場に及ぼす悪影響を最小限に留める政策などが求められよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
生成AIが日本の労働市場に与える影響①
労働市場に与えるメカニズムの整理と米国の研究や事例からの示唆
2023年12月08日
-
生成AIが日本の労働市場に与える影響②
就業者の約80%が生成AIの影響を受ける可能性
2023年12月11日
同じカテゴリの最新レポート
-
国内旅行消費、押し上げの鍵は「分散化」
国・自治体・企業の連携で旅行の時期を分散し費用減と混雑の緩和を
2025年07月11日
-
経済指標の要点(6/18~7/11発表統計分)
2025年07月11日
-
有効求人倍率の低迷は実態を表しているのか?
業務統計であるが故のデータの振れや集計対象の偏りに注意
2025年07月09日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日