サマリー
◆生成AIが多くの職業の生産性を向上させるとの期待が高まっている。一方、雇用喪失や格差拡大といった懸念もしばしば指摘される。この問題意識を背景に、以降、3回に分けて、生成AIが日本の労働市場に与える影響を議論する。今回のレポートでは、生成AIが労働市場に与えるメカニズムの整理と、米国の研究や事例からの示唆について述べる。
◆生成AIを含めた新たな技術が雇用に影響を与えるためには、まずその技術が社会に受け入れられる必要がある。その前提条件としては、①政治的に受け入れられる、②自動化可能なタスクが存在する、③労働コストに比べて十分に安い、ことが挙げられる。現状の日本では、生成AIはこれらの前提条件を既に満たしている公算が大きい。
◆その上で、新しい技術が雇用に与える影響がプラスなのかマイナスなのかは、新たな技術が労働者の仕事を補完および支援する力がより強い「労働補完技術」、あるいは労働者に取って代わる力がより強い「労働置換技術」のどちらの要素が強いかで決まる。さらに、雇用の増加が労働者の待遇向上につながるためには、労働者側に一定の立場の強さが必要である。
◆生成AIの開発や活用などが先行している米国の研究や事例を整理すると、生成AIはいわゆるホワイトカラーのタスクに与える影響が強い傾向がある。また、労働市場の流動性が高い米国では、生成AIはエンジニアなどの雇用を創出する一方、テック業界や一部のフリーランサーへの雇用の悪影響が既に顕在化している。
◆次回以降のレポートでは、第二弾として、生成AIの普及が日本の労働市場に与える影響を定量的かつ包括的に分析する予定である。具体的には、職業ごとにタスク全体のうち生成AIが自動化可能な割合を示す「自動化対象率」を試算し、様々な分析を実施する予定である。また第三弾では、生成AIが雇用の代替や補完に及ぼす影響を詳細に議論した上で、日本が生成AI時代に対応するための政策を提案する。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
消費データブック(2025/7/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年07月02日
-
2025年6月日銀短観
業況判断DI(最近)は底堅いが、先行きへの強い警戒が示された内容
2025年07月01日
-
2025年5月鉱工業生産
生産用機械工業などの増産で上昇も市場予想を大幅に下回る結果
2025年06月30日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日