サマリー
銀行不安に続いて、再び米国の国内問題が世界の金融市場を混乱させるリスク要因になっている。銀行不安が突然発生したのに対して、債務上限によるデフォルト問題は以前から分かっていたにもかかわらず、解決を瀬戸際まで延ばすという点で著しい不作為といえよう。しかも、過去に何度も繰り返されてきたためか、一部の議員は財務省発表のデッドラインを疑っている。オバマ政権下で生じた同様の危機時(2011年や13年、15年)は、FOMCがリーマン・ショックで導入した低金利を維持しコアインフレ率も1%台と低かったが、今回は終盤とはいえ、利上げ局面・高インフレ下での混乱である。リセッションの可能性も指摘されるタイミングで不透明さが一段と増すことから、金融市場がその行方に神経を尖らせるのも当然だ。大統領経済諮問委員会は債務上限問題が米国経済に与える影響を試算し、デフォルトに陥る最悪のケースでは、財政対応も困難なためリーマン・ショック級のダメージになるとしたが、注目すべきは、土壇場で決着しデフォルトを回避しても景気下押しのコストが発生する点である。インフレに加えてデフォルトが意識されれば、米国への信用は低下し世界的なドル離れにつながる恐れがある。つまり、世界が低リスク資産の代表である米国債を従前ほど保有しなくなると、金利上昇圧力は高まり、ドル安は米国のインフレ率を押し上げよう。市場にとってのポジティブサプライズは、長期間(例えば24年の大統領選挙後まで)の先送りで米議会が合意することだが、現実的には、小幅な上限引き上げ等猶予期間の短い妥協となる可能性が高い。ただ、そうなると混乱は繰り返され、無駄なコストを払いながら、米国の景気や信用は徐々に悪化していく恐れがある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2023年5月
経済見通しを改訂/「好材料」の増加で安定性を増す日本経済
2023年05月24日
-
米国経済見通し 債務上限問題の行方は?
たとえ両党の指導部間で合意しても一件落着ではない
2023年05月24日
-
欧州経済見通し 過度な悲観は後退
ECBは利上げ路線を継続、金利上昇の影響にはなおも警戒
2023年05月24日
-
中国経済見通し:変調?一時的減速?
若年層の高失業率とデフレ懸念。民営企業への積極的なテコ入れが鍵
2023年05月24日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日