サマリー
英国のトラス首相が在任わずか44日で辞任を表明した。保守党党首選挙で公約した大型減税を含む経済対策を公表したものの、巨額な財源を国債発行に求めたことで債券安、ポンド安、株安のトリプル安を招いた。ただでさえエネルギー価格や食品価格の高騰に苦しんでいる家計に、住宅ローン金利上昇や将来の年金不安の台頭が加わったことで、保守党の支持率は急落した。経済対策のほとんどを白紙撤回したものの金融市場の混乱は収まらず、身内の保守党議員からの批判、閣僚の辞任もあり、孤立無援の状況に陥った。選挙公約は大風呂敷になりがちで、それを実行に移すにあたっては現実との折り合いをつけるのが通例だが、トラス首相は自身の理念に固執し、市場からの警告や議会からの批判になかなか耳を傾けなかった。党首選挙の段階から指摘のあった財源問題を軽視し、経済対策の修正を頑なに拒否したあげく、突然撤回することを繰り返し、辞任表明以外の選択肢がなくなってしまった。市場からの警告が常に正しいとは限らないが、それに耳を傾け、市場との対話に尽力することは、政策担当者にとって非常に重要であるということだ。なお、市場が的確に状況を判断するためには、透明性の高い情報の提供が欠かせない。その点で中国の主要マクロ経済統計の突然の公表延期は大いに気がかりである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2022年10月
停滞感強まる7-9月期の景気動向を踏まえGDP見通しを改訂
2022年10月20日
-
米国経済見通し 高まる景気下振れリスク
11月のFOMCで利上げ幅の縮小議論が開始されるかが注目点
2022年10月20日
-
欧州経済見通し 新米首相に翻弄された教訓
金融政策と財政政策のバランスをどう取るか
2022年10月20日
-
中国経済見通しに代えて
習近平氏「一強体制」の弊害と党大会「報告」経済分野のポイント
2022年10月20日
同じカテゴリの最新レポート
-
KDD 2025(AI国際会議)出張報告:複数AIの協働と専門ツール統合が新潮流に
「AIエージェント」「時系列分析」「信頼できるAI」に注目
2025年09月03日
-
消費データブック(2025/9/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年09月02日
-
2025年4-6月期法人企業統計と2次QE予測
トランプ関税等の影響で製造業は減益継続/2次QEはGDPの上方修正へ
2025年09月01日
最新のレポート・コラム
-
KDD 2025(AI国際会議)出張報告:複数AIの協働と専門ツール統合が新潮流に
「AIエージェント」「時系列分析」「信頼できるAI」に注目
2025年09月03日
-
消費データブック(2025/9/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年09月02日
-
2025年4-6月期法人企業統計と2次QE予測
トランプ関税等の影響で製造業は減益継続/2次QEはGDPの上方修正へ
2025年09月01日
-
企業価値担保権付き融資の引当等の考え方
将来情報・定性情報を適切に債務者区分・格付に反映
2025年09月01日
-
“タリフマン”トランプ大統領は“ピースメーカー”になれるか ~ ノーベル平和賞が欲しいという野望
2025年09月03日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日