サマリー
英国のトラス首相が在任わずか44日で辞任を表明した。保守党党首選挙で公約した大型減税を含む経済対策を公表したものの、巨額な財源を国債発行に求めたことで債券安、ポンド安、株安のトリプル安を招いた。ただでさえエネルギー価格や食品価格の高騰に苦しんでいる家計に、住宅ローン金利上昇や将来の年金不安の台頭が加わったことで、保守党の支持率は急落した。経済対策のほとんどを白紙撤回したものの金融市場の混乱は収まらず、身内の保守党議員からの批判、閣僚の辞任もあり、孤立無援の状況に陥った。選挙公約は大風呂敷になりがちで、それを実行に移すにあたっては現実との折り合いをつけるのが通例だが、トラス首相は自身の理念に固執し、市場からの警告や議会からの批判になかなか耳を傾けなかった。党首選挙の段階から指摘のあった財源問題を軽視し、経済対策の修正を頑なに拒否したあげく、突然撤回することを繰り返し、辞任表明以外の選択肢がなくなってしまった。市場からの警告が常に正しいとは限らないが、それに耳を傾け、市場との対話に尽力することは、政策担当者にとって非常に重要であるということだ。なお、市場が的確に状況を判断するためには、透明性の高い情報の提供が欠かせない。その点で中国の主要マクロ経済統計の突然の公表延期は大いに気がかりである。
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