2021年11月08日
サマリー
◆政府が6月に公表したグリーン成長戦略では、「市場メカニズムを用いる経済的手法(カーボンプライシング等)」のうち「成長に資するものについて、躊躇なく取り組む」とし、検討を進める旨が記載された。そこで60ユーロ及び120ユーロ/トンCO2のカーボンプライシングが各国で一律に導入された場合の付加価値への影響を機械的に試算したところ、EUの付加価値は増加する一方、中国は大幅に減少するとの結果が得られた。日本の付加価値はおおむね横ばいで推移するとみられる。
◆国・地域間のカーボンプライスの差を調整する炭素国境調整措置は、いわば脱炭素化への取り組みが不十分な国の製品に対して関税をかける制度である。EUは措置の導入に向けて具体的に動いており、2026年に導入を開始する見通しだ。米国ではバイデン大統領の選挙公約に盛り込まれたが、導入は当面見送られるだろう。
◆カーボンプライシングの導入・拡大は、脱炭素化対策が不十分な企業の製品の価格を上昇させる一方、適切な水準の炭素価格を負担し、脱炭素化投資を拡大している企業の競争力を相対的に高めることが期待される。ただし、脱炭素化投資による企業負担が過大になれば、経済成長を抑制する可能性がある。そのため、政府はその税収増を財源に経済成長を促す措置を同時に講じる必要があろう。それにはEUの「公正な移行」のように脱炭素化による産業構造の変化で悪影響を受ける企業や労働者を支援する枠組み、技術開発やその技術の普及の支援といった政策が求められる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
脱炭素化政策の国際比較に見る日本の課題
新規産業育成や硬直的な日本労働市場への対応が重要
2021年02月24日
-
「脱炭素社会」実現の経済的意義と課題
グリーン投資は経済成長に寄与するが限界費用の増加に注意が必要
2021年02月02日
-
日本のCO2排出動向と貨物輸送の課題
多頻度小口化対策としての「置き配」に注目
2021年06月02日
-
再エネ拡大と家計の負担
~太陽光発電のポテンシャルは屋根置き、農地、PPA ~『大和総研調査季報』2021年10月秋季号(Vol.44)掲載
2021年10月21日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年1-3月期GDP(1次速報)予測 ~前期比年率+0.5%を予想
外需が下押しも内需は堅調/小幅ながら4四半期連続のプラス成長
2025年04月30日
-
2025年3月鉱工業生産
自動車工業や電気・情報通信機械工業など10業種が前月から低下
2025年04月30日
-
急速に広がる資格情報等のデジタル化
利用時に気をつけるポイントと求められるデジタルリテラシー
2025年04月28日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日