サマリー
コロナウイルス・ショックによる中国景気萎縮のマグニチュードは極めて大きい。不安が「人々の稼働率」を極端に低下させている。消費は激減し、一方で労働力不足が企業活動の停滞に拍車をかける。しかし食料等の生活必需品への需要は大きく減らないため、これらの財に価格上昇圧力がかかる。勝ち組の存在しないスタグフレーションの世界である。そして感染の世界的拡散を巡る不確実性が金融市場を不安定化させている。株安による負の資産効果や新興国通貨安などの「二次災害」にも注意が必要である。ただし、中国政府の発表によれば、湖北省以外の中国国内の新規感染者は既に減少し始めており、世界的流行の拡散も後を追うようにピークアウトする可能性が出てきた。結果として、その経済的悪影響も一過性のもので終わる期待が持てるようになっている。とすれば問われるべきはむしろ、今般のショックを受けて講じられてきた、あるいは講じられようとしている政策の妥当性である。一過性にすぎないショックに、過大な対策が打たれはしなかったか、今後打たれることはないかという問題である。例えば中国人民銀行は一般的なセオリーに反して、スタグフレーション下の金融緩和を行っている。このこと自体は供給制約によるインフレ圧力が早期に収束すれば大きな被害をもたらすわけではないと思われるが、このような中国政府の本気度が、2020年のGDPの2010年比倍増を確保せんとする決意と相まって、インフラ投資の拡充などによる景気対策として結実することはないかが問題である。景気悪化が一過性のものであれば、投資拡充の効用には限界がある。しかし確実に債務は増える。そしてチャイナ・ショック再来のリスクが高じる。中国経済にとっての「泣きっ面に蜂」はコロナウイルスではなく景気対策であるかもしれないということだ。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2020年2月
新型コロナ問題の本質 / 業績悪化懸念下でも株高現象の正体
2020年02月21日
-
米国経済見通し 民主党候補者の本命は?
戦局が大きく動くトリガーはウォーレン氏の撤退
2020年02月21日
-
欧州経済見通し 景気持ち直しか底這いか
中国発の新型肺炎の影響はまだ見極めがつかない
2020年02月21日
-
中国経済見通し:新型肺炎で景気は急減速
終息に向けた光明も
2020年02月21日
同じカテゴリの最新レポート
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
石破政権の経済政策に求められるもの
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
最新のレポート・コラム
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
「外国人優遇」は本当か?データで見る国民健康保険・国民年金の実態
2025年07月25日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日